無意識というのは恐ろしいものだ——。
そう呟くしかないわたしは、誰のものか分からない怪しげなペットボトルを、そっと床に置いたのである。
*
柔術の試合会場にて、一人ぼっちのわたしは常に貴重品を持ち歩くことを強いられた。もしも知り合いがいれば、荷物を預けるなり一緒に置かせてもらうなりできるのだが、誰もいない場合は自己責任となるので致し方ない。
そんなわけで、着替えやバッグはウォームアップエリアの隅に置いたまま、いそいそと道着チェックへと向かうわたしは、今日に限ってレジ袋を持ってこなかったことを悔やんだ。
レジ袋というのは、じつは試合の時こそ重宝するアイテムである。スマホ、財布や鍵、ドリンク、マウスピースやテーピングなど、貴重品および柔術の備品をまとめて持ち歩くのに最適な形状であり、最終的にはゴミ袋としても活躍する優れもの。
そんな便利なレジ袋が、今日に限って存在しないことに気が付いたわたしは、前日のうちにコンビニでドリンクや食料品を調達してしまったことを思い出し、「マジで、余計なことするんじゃなかった・・」と己の用意周到さを恨んだ。
いつもならば、会場へ向かう途中のコンビニへ寄って買い物をするので、そこでレジ袋を入手することができる。だが今日はそれが叶わなかったため、小物を素手で持ち歩かなければならない——最悪だ。
とりあえず、ペットボトルとテーピングケース、マウスピース、スマホおよび家の鍵、さらにクレジットカードをしっかりと抱きかかえ、決して落とさぬよう静かに歩いた。
つい「うっかり手が滑って・・」などという失態を犯さないためにも、かなり強い力でギュッと脇を閉めていたので、仮に誰かが何かを奪おうとしても不可能なくらい、防犯対策に余念がない——そんなわたしは、ある時ふと気が付いたのだ。
「この飲み物は、いったい誰のものだろう?」という事実に。
道着チェックと計量を終えたわたしは、ようやく荷物が下せることに安堵しつつ、持ち物を一つずつ地面に置いた。まずはテーピングとマウスピース、次にスマホ、そして家の鍵とクレカ、最後にペットボトルと、もう一つペットボトル・・・え?
そう、なぜかわたしはペットボトルを二つ抱えていたのだ。
(わたしは当初、この「漢字だらけの珍しい商品名のペットボトル」だけを抱えていたはず。じゃあ、こっちの水は誰のものなんだ? ていうか、いつどこでこの水を手に入れたんだ、わたしは?!)
記憶上、わたしは一度も手を緩めていない。とはいえ、道着チェックの時も計量の時も、当然ながら持ち物からは手を放している。よって、そのいずれかのタイミングでスタッフのドリンクを(無意識に)かっさらったのだろう。
だとしたらどっちだ? 道着チェックのヒトか、はたまた計量のヒトか。だが、もしも自分のドリンクをわたしが持ち去ろうとしたら、「それは俺のだ!」と警告するだろう。それなのになぜ、無言でスルーさせたんだ。まさか、枯渇した様子のわたしを見るに見かねて、大切な水を分け与えてくれたとでもいうのか——。
(いや、そんなわけないだろう)
*
図らずも、これがスーパーやコンビニで起きた出来事ならば、あわやわたしは万引き犯。いやはや、無意識とは恐ろしいものである。










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