恐怖のお茶会(前編)

 

(最悪だ・・・)

ついに朝を迎えたわたしは、気分も胃袋もどんよりと重たいまま絶望に打ちひしがれていた。

 

今日は、人生初のお茶会——正確には、子どもの頃に強制参加させられて以来のお茶会にお呼ばれしているのだが、作法やマナーとは無縁の”野性”を地で行くわたしにとって、このような場違いも甚だしい空間へ参上しなければならないのは、リアルに拷問以外の何物でもない。

とはいえ、友人のお点前を頂戴できるせっかくの機会であり、普段見ることのできない勇姿(?)を拝めるのは楽しみ。だが、そんな友人のためにも「招かれたわたしが、無礼や粗相を犯してはならない」という、極度のプレッシャーに押しつぶされそうになっているのも事実。

 

そもそも、お茶会には厳格なマナーがいくつか・・いや、かなり存在する。

まず「白い靴下」というマストアイテムについて。これは、白という色が清浄や格式を意味する上に、道具や畳への配慮を表すために必要なマナーなのだそう。そもそも、茶道における茶室は「清らかな場」であるため、汚れが見えやすく”清潔さの証”となる白い靴下や足袋を履くことで、お招きいただいた亭主への感謝と誠意を示すわけだ。

 

そしてわたしは、当然ながらそのようなアイテムを持っているはずもなく、おとといの夜、大慌てでAmazonにて白い靴下を注文したのである。

どうやら、白い靴下といえでも「新品が好ましい」とされているため、6足入りを購入したわたしは「あと5回はお茶会に参加できる」と、将来のお茶会を約束された気分になった。でなければ、この靴下はゴミとなる運命——何が何でもあと5回はお茶会に招かれなければ、白い靴下が浮かばれないのだ。

 

そして、肝心の「お茶をいただく」という儀式について。ここが重要であるのは言われるまでもなく承知しているが、そもそもお茶をいただく前に「茶室へ入る際のお辞儀の仕方や、襖(ふすま)の開け方および部屋への侵入方法」などなど、目的地へたどり着くまでに様々なトラップが仕掛けられているのが、茶道の恐ろしい・・いや、奥深いところ。

そんな、見事に散りばめられた地雷や罠をかいくぐりつつ、涼しい顔で席に着くというミッションを課せられたわたしは、とりあえず「正客(しょうきゃく)」と呼ばれるリーダー的なベテランが座る場所は避けて、確実に下座を陣取ことだけをインプットした——それ以外は、もはやテヘペロで乗り切るしかない。

 

(精神的に)疲労困憊の状態でなんとか着席し、「ふぅ・・では一服いただこうか」と言いたいところだが、真の戦いはここから始まるのだ。

まず、ただ単にお茶が出てくることはない。なぜなら「お菓子とセット」だからだ。そして当然ながら、お菓子の食べ方というか取り方にも手順や作法があり、そこを間違うとお茶をいただく前に赤っ恥をかくことになり、その後は居心地が悪いどころか生きた心地がしないだろう。

「さぁ、このお菓子を正しく扱ってみなさい!」

眼光鋭く野生児(わたし)の所作を監視する亭主に対して、わたしは淡々とお菓子を取り口へと運ぶ——え?どうやって取って、どうやって運ぶの?

 

そう、ここで「懐紙(かいし)」の登場だ。懐紙とは和紙で出来た万能なアイテムで、お菓子を載せる受け皿になったり、砂糖やお茶で汚れた指先を拭う”おてふき”になったり、はたまたメモ帳やポチ袋になったりと、お茶会以外でも様々な場面で活躍する優れもの。

そんな懐紙を懐から取り出し——え?ワンピースや洋装の場合はどこから取り出すの?

 

・・まぁいい、そこは端折って先へ進もう。とにかく、お茶の前にお菓子を食べ切らなければならないため、まずは菓子器(亭主から出されたお菓子が載っている器)を「おしいただいて」から・・ん?おしいただくって、なんだ?

 

葬式の焼香の際に聞いたことのある言葉だが、ここでも焼香のようなことをするのか?——茶道における押し頂く(おしいただく)とは、亭主が点ててくれたお茶やお菓子に対して感謝と敬意を表す行為で、本来の意味は「うやうやしく頭の上にささげ持つ」だが、菓子器を頭上に持ち上げるのはおかしいので、畳から少し持ち上げて「ぬんっ!」という表情をしてから戻す・・という感じの動作をする模様。

その後、菓子器から手元の懐紙へとお菓子を移動させて、その際に取り箸を使ったならば箸の先端を懐紙で拭いて・・いや、清めてから菓子器へ戻し、下座の客へと菓子器を押し出す——ここまでやって、まだ菓子はわたしの口へとたどり着かないのか!?

 

 

というわけで、お茶をいただくどころかお菓子を口にすることすらできずに——実際には、本番で出されたお菓子を想定して、頂き物の抹茶のチーズケーキと抹茶のブッセそして抹茶チョコサンドクッキーを皿に並べ、郵便受けから回収してきた不要なチラシを「懐紙」に見立てて取り分けた上で、爪楊枝でカットしたり手で割ったりといった動作の練習を繰り返し行ったため、我が胃袋はスイーツでパンパンになったわけだが、目の前に置かれた菓子器を”押しいただく”ことがそもそも不安でならないわたし。

 

この続きは、また明日お伝えすることにしよう。

 

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