赤い恋の結末 URABE/著

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アタシは今日、ひと夏の恋に終わりを告げた。

そもそも、このオトコのことはそこまで好きではなかった。ただちょっと、周りにはいないタイプで魅力を感じたのよ。この辺りでは見かけない派手な装いと、時代先取りの圧倒的な存在感とが、女心に火をつけたんだと思う。

そしてアタシは、彼氏に秘密で新しいオトコと関係を持った。連日、いいえ、三日連続で愛し合ったわ。でも不思議と罪悪感はなかった。それでもどこか、心の奥底で不思議な感情が生まれたことに気が付いたの。それはいつしか不協和音となり、それから明らかな異物となって爆発したわ。

――やっぱり、アタシには合わなかったんだ。

 

洋服のブランドでいえばアルマーニやギャルソンのような、自己主張の激しいデザインとカラーリングを纏ったそのオトコは、一糸まとわぬ姿も見事だった。

鍛え抜かれ引き締まったボディは、信じられないほどみずみずしくて、オンナならば誰でも釘付けになるほど、惚れ惚れするような輝きを放っていた。

――これほどの潤いを、いったいどうやって蓄えているのよ。アンタなんかじゃなくて、アタシにちょうだいよ。

 

それから三日三晩、アタシたちは明け方まで愛し合った。アイツの体液がそこらじゅうに飛び散る。アタシの顔も、腕も、足もひどく汚れてしまったわ。おまけにメガネまで・・。

骨の髄までしゃぶりつくす勢いで、アタシはアイツに必死に縋りついた。これでもかというほど、信じられないくらいギリギリまで、アタシたちはお互いを試した。そこに残るのはもう、屍しかないというのに――。

 

そしてアタシは覚悟を決めた。・・もう別れよう。やっぱりアタシとは釣り合わないオトコだったんだ。

ほら、よく言うじゃない?目移りするって。白米と梅干しの組み合わせは、豪華でもなければものすごく美味しいわけでもない。だからこそ、たまには炒飯や丼ものに目移りしてしまうのよね。それでもやっぱり、毎日食べるならば白米と梅干よ。帰るべき場所はココ!っていう、そんな包容力のある存在感こそが「本命」の証。

火傷するような刺激的な恋もいいけれど、そういうのはやっぱり長くは続かないもの。そう、だからアタシは今日限り、アイツを追うのは止めるわ。

 

短い間だったけれど、とてもエキサイティングで官能的な三日間をありがとう。赤く激しいこの思い出は、これからもずっとアタシの胸の奥に閉まっておくわ。

――サヨウナラ。

 

 

私は今日、三日連続でスイカを食べた。しかも今日は大玉スイカを半分に切って、スプーンでほじくり出して食べた。

昨日は、自宅の床にスイカを叩きつけて粉々にしたため、スプーンなど使うことなく食べ尽くすことができた。だが今日はキレイに二等分したため、そのままかぶりつくことは不可能。よって、スプーンでほじりながら食べ進めるしかなかったのだ。

 

これこそが最悪な行為だった。

 

果肉の95%が水分であるスイカは、ほじればほじるほど水分が飛び散った。メガネに付着した果汁のせいで視界が不鮮明である。おまけに顔面も前腕も太腿も、テーブルもスマホもフローリングの床までもが、スイカの汁でベタベタである。

そしてスイカの中で最もシトルリンが多く含まれる、外皮と赤い果肉との間にある「白い部分」をこそぐべく、猫が爪を研ぐかのように何度も何度もシャッシャとスプーンで削り取った。言うまでもなく、そのたびに大量の果汁が飛び散った。

 

(最悪だ・・・)

 

果汁の痕跡が確認できる場所ならばまだいい。そこを水拭きすれば終わるからだ。しかしソファや布製品に付着した果汁は目視できない。しかも水洗いが困難なものであれば、ファブリーズをぶっかけるくらいしか打つ手はない。

もう二度と、大玉スイカをスプーンでほじって食べるような真似はやめよう――。

 

こうして、三日連続でスイカを貪り食うという、わたしの短い恋は終わりを告げた。これもすべて、果物ランキング上位でもないスイカに入れ込んだ、わたしが悪いのだ。

つまみ食いはあくまでつまみ食いに留めておかないと、痛い思いをするのは自分自身なのだと、改めて思い知ったのである。

 

(・・明日からは、カットスイカに戻ろう)

 

Illustrated by 希鳳

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