とある恐ろしい実験を敢行したわたしは、まさかの——いや、狙い通りの結果を得ることができて、一人密かにほくそ笑んだ。
どのような実験かというと、骨折により長年曲がることのなかった左手中指を、改めて傷めることで固着をリセットし、修復過程で積極的なリハビリを行い可動域を増やす・・というもの。
こんなバカげた実験を思いつくなど、我ながら正気の沙汰とは思えない。だが、そこまでしてでも「固まった中指をどうにかしたい」と願う気持ちは強く、この先もピアノを弾き続けるには絶対に必要な行為なだった。
とはいえ、改めて骨折というのはさすがに馬鹿馬鹿しいしあり得ない。もう少し軽い怪我で、イメージ的には「固着した部分を軽く破壊し、再生途中で積極的に動かすことで本来の可動域を取り戻す」という感じなのだが、果たしてこの作戦は奏功するのだろうか。
そもそも、どうやって中指を怪我すればいいというのか。こちらとしても、できればあまり痛くない・・というか、長引く怪我は避けたいところ——っていうか、どこの世界に自ら率先して負傷しにいく愚か者がいるというのか。そんなことをせずとも、今の状態から地道にリハビリをすればいいのではないか?
(否。それが出来ていれば、こんなバカげた作戦を思いついたりはしない)
そう、どうやっても自力で動かすことのできない我が中指は、真っすぐ伸ばすこともできなければわずかに曲げることすらできない。よって、左手でジャンケンをすれば「グーを」出せないため、チョキかパーの二択しかなかった。
そんな状態の中指を、無理やり丸めようと逆の手で押し込んでも、痛いだけで微動だにしない。よって、この状態からのリハビリというのはおそらく意味がないのだ。
だからこそ、わたしはやらねばならぬ。今一度、中指を負傷して固着をリセットする必要が!!
そう強く願っていた先日、まさかの奇跡が起きた。
柔術の練習中の出来事だが、左手で相手の背中を抱きかかえていたところ、わたしの手腕を押しつぶす形で相手が寝転んだため、全体重がわたしの手のひらに乗ったのだ。それにより、必然的に中指が伸ばされる形になり、わたしは思わず「イテッ!」と叫び声をあげた。
実際のところ、手のひらの上に相手が寝転んだだけなので、普通ならば痛くもかゆくもない動作である。だが、中指が微妙な角度で固まっているわたしにとって、それは指を強引に伸ばす行為であり、決して自力ではできないことだった。
しかしながら、この奇跡的な荒療治により我が中指は軽く負傷することができた。そして、いよいよリハビリを開始する日を迎えたのだ。
*
その後、グーパーを繰り返したり何かを握りしめては緩めるという訓練をしたり、目が覚めている間は常に中指を動かすことに注力した。
しかもその効果は覿面(てきめん)で、初日の時点で明らかに指が曲がるようになった。さらに続けて行くと、第一関節と第二関節がそれぞれ深い角度で曲がるようになり、人間らしい動きをみせるようになったのだ。
見るからに無骨で醜い枯れ枝のようだった中指が、長い時を経てようやく命を吹き込まれた——そんな例えがしっくりくる変化だった。そして、中指の可動域が広がったことで、隣接する人差し指と薬指にも明らかな変化が見られた。
今までは、動かない中指につられて・・いや、中指を補う形で鈍い反応しかできなかった人差し指と薬指が、わずかながら自立したのだ。そう、中指を改善することで、他の指のポテンシャルも上がったのだ。
これぞ正に怪我の功名。完全に元通りとはいかないにせよ、ある程度「狙い通りの結果」を手に入れることができ、ニヤニヤが止まらないわたしなのであった。











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