蛮族の平服(へいふく)

 

わたしは今日、社会人歴ン十年のベテランであるにもかかわらず、まさかの「ドレスコードの罠」にはまった。いったい、何をどう間違えたのだろうか——。

 

 

某セレモニーに招待されたわたしは、参加費を握りしめるとダッシュで家を出た。

めでたいお祝いの席ゆえに、遅刻は許されない。とにかく、開始時刻と会費の金額だけは間違わないよう、事前に何度も招待状と照らし合わせて確認をしたので大丈夫だろう。

そして、「服装」の項目も目に穴が開くほど何度も読み返した——そう、わたしは見た目が粗野であるため、普通の格好をしていても蛮族のような乱暴で荒っぽい雰囲気が出てしまうのだ。そのため、ドレスコードだけは外さないよういつも以上に警戒したのである。

 

(服装は・・えっと「カジュアルな服装でお越しください」と書いてある。よし、問題ない!!)

 

カジュアルな服装といえば、押しも押されぬわたしの普段着のこと。よって、自信をもって普段着で訪問すればいい——そう確信したわたしは、近所へフラッと出掛けるかのようなラフな格好で、いそいそと会場へ向かった。

とはいえ、めでたい席なのでこちらも出来るだけめでたい色がいいだろう・・と考えたわたしは、一張羅である真っ赤なタンクトップを手に取った。そして、長時間座りっぱなしとなる可能性を考慮して、パンツはウルトラストレッチの通気性抜群ワイドパンツを選んだ。

いずれもユニクロの商品ではあるが、ここはブランドよりも機能性を重視すべき場面であり、セレモニーに集中するべくアクティブかつ快適な衣装を選択したのである。

 

こうして、自信満々に会場へと踏み込んだわたしは、目の前に広がる圧倒的な違和感と裏切りの光景に、思わず背筋が凍った。

 

なんと、ほとんどの者が襟のついたシャツを着用しており、カラーリングも白や黒の重苦しい色合いでまとめ上げているではないか!!!

わたしは、こっそりとスマホを覗くと改めて招待状の文言を読み返した。だが、何度読んでも「カジュアルな服装でお越しください」と書いてある——。

改めて己の出で立ちを確認したところ、ピタピタの赤いタンクトップからは隆々とした筋肉がむき出しとなり、パンツこそ黒色ではあるが裸足でビーチサンダルの足元は女性とは思えないほど立派でゴツイ。そんな”蛮族”を発見した友人ら——襟付きのシャツやジャケットに身を包んだ、およそまともな紳士たちに取り囲まれたわたしは、社会人としての身だしなみについて大いに説教をくらった。

 

「平服(へいふく)って書いてあっても、セレモニーなんだから最低限のマナーはあるでしょ」

「いくらカジュアルでOKと言われても、場の意味合いを考えれば普段着でいいわけないじゃん」

 

ごもっともな正論をぶつけられて、驚きと恥ずかしさで倒れそうになるわたし。

ちなみに、ネット検索したところ「平服=普段着ではない。カジュアル過ぎる普段着はNGであり、必ず、ジャケットや綺麗眼のワンピースなど、上品な装い(略礼装)を選ばなければならない」と書いてあるではないか。

とはいえ、そんなことを言われても襟付きのシャツなど一枚も持ってないし、綺麗めのワンピースというものも思い当たる節がない。無論、あらかじめスマートカジュアルだと分かっていれば買いに行くこともできたが、さすがに会場に到着してからでは遅い。あぁ、万事休す——。

 

それにしても、皆が皆揃いにそろってスマートカジュアルで身を固めているとは、いったいどういうことなのだろうか。

カジュアルな服装で・・と書いてあったにもかかわらず、誰もがちゃんとそれなりの服装で来ている現実に、己が抱く”常識”と一般的な”ソレ”との間に大きな隔たりがあるのではないか、と密かに眉をひそめるわたし。

(まさか、わたしの常識が一般的な社会人とは違うとでもいうのか・・・?)

 

 

おそらく、そういうことなのだろう。

 

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