はじめまして、茎レタス。

 

どれほど知識があろうが研究者レベルに理解していようが、文字やイラストだけでは決して知ることのできないがものある。それは”味や匂い”の存在だ。

味や匂いというのものは、体感した者だけが手に入れることのできる感覚であり、それに対する評価や感じ方は人それぞれ異なる。だからこそ、対象物の匂いを嗅いだり舌に乗せたり歯で噛んだりすることが重要なのだ。

 

そして今日、わたしは生まれて初めて「茎レタス」なる野菜を口にした。名前も初めて聞いたが、実物を手に取ってさらに驚いた——なにこれ、巨大なワサビか!?

わたしの肘から指先まであろう長さの巨大ワサビは、極太サイズのズッキーニよりも立派な径を誇り、なにより独特な香りが漂っている。そう、これこそがプロの農家によって育て上げられた”プロの茎レタス”なのである。

 

茎レタスは、古代エジプトを起源としており、それがシルクロードを経て中国へ伝わり品種改良された後、奈良時代から平安時代にかけて日本へと渡ってきた模様。

どうやら、(通常のレタスのように「葉」ではなく)肥大化した茎を食べるように独自の品種を確立したのは中国であり、そのため、茎レタスといえば中華料理の具材として有名なのだそう。

しかも、一般的なスーパーやネットサイトでは、なかなか茎レタスを購入することは難しい。そのため、友人・知人の伝手や情報提供がなければ、新鮮かつ立派な茎レタスを手に入れることはできないのである。

 

そんな珍しい野菜を大量に入手したわたしは、段ボールを開封した瞬間に溢れ出る「初めて嗅ぐ匂い」に圧倒された。なんというか、青臭くもあり土の香りでもあり、独特の苦みを感じるような不思議な匂い——そう、これこそが茎レタスの放つポテンシャルであり、人生後半に差し掛かるまで知ることのなかった香りだった。

まずは生のまま茎レタスに齧りついてみたところ・・ミルクのような白い汁がみるみる溢れ出てくるではないか。しかも、に、に、にがい!!

この白い汁は灰汁(あく)の一種で、ラクチュコピクリンというポリフェノールだった。そのため、味はたしかに苦いがその正体は抗酸化物質のため、言うまでもなく体に良い成分。しかも、新鮮な個体だからこそ溢れ出るこの白い液体は、茎レタスが元気で若々しい証拠でもある。

 

何はともあれ、猿人から原始人へと進化を遂げたわたしは「食べ物を加熱する」という方法を覚えたため、茎レタスを真っ二つにへし折るとサランラップに包んで電子レンジへと放り込んだ。そして、まずは3分、次に8分・・と、加熱時間を変えながら様子をうかがったところ、まさかの発見に至ったのだ。

無論、レタスなので生でも食べられるのだが、茎レタスの外皮は硬化したアスパラガスのように頑丈な繊維質でできているため、表面を分厚く削いで中身を食べるのが一般的。

だが、包丁という器具を使わなければならない手間とストレスを考えると、そこを省くためにはどうすればいいのか・・というわけで、長時間加熱して「外皮まで柔らかくすること」を思いついたのだ。

 

その結果、茎レタスを10分間電子レンジで加熱することにより、茎も葉もすべて余すことなく食べ切れるという、エコかつ手間いらずの事実にたどり着いたのである。

 

茎レタスを水道水ですすいで、半分に折ってレンジへ入れて10分待つ——ホカホカに茹で上がった、見事なサファイヤ色の茎レタスに齧りつく。この繰り返しで、あっという間に茎レタス10本が胃袋へと収まってしまった。

(・・まぁ成分のほとんどは水分だし、残すところは食物繊維とカリウム、あとはビタミンKやCなわけで、うまい棒50本より明らかに健康的である)

 

ちなみにこの茎レタス、茎が太く発達している=食物繊維が豊富ということで、シャキシャキとした歯ごたえがクセになる。

生で齧るとリンゴのような食感で、外皮ごと食い千切ろうとすると硬いセロリのような繊維質感を覚える。そして10分加熱してしまえば、中身までホロホロのアスパラガスのような風味となる。

というわけで、どうやって食べてもそれぞれの特徴が生きる、なんとも面白い野菜なのだということが分かった。

 

 

わたしは金輪際、二度と茎レタスを忘れることはない。その理由は「茎レタスが放つ独特な香り」を記憶したからだ。

こればかりは、実際に嗅いだことのある者にしか知り得ない貴重かつ絶対的な経験である上に、実物を見ずとも茎レタスの存在を言い当てることができるくらい、特徴的な香りを放っていた茎レタス。

 

とかく味もそうだが、匂いというのはヒトの記憶に深く刻み込まれる性質がある。たとえば、小学校の下校途中に嗅いだ夕飯の匂いや、どこからともなく漂う金木犀の香りに秋の訪れを知る——。

いつまで経っても脳裏に焼き付いている思い出というのは、得てして匂いと密接に結びついていることが多い。それゆえに、茎レタスの匂いを覚えたわたしは、この貴重な経験と感動を忘れることはないだろう。

 

そんな「茎レタス」という人生初の存在を与えてくれた、友人に感謝である。