予知能力?

 

最寄り駅からの帰り道、アメリカ土産のデカい麻のバッグ——TRADER JOE’S(トレーダージョーズ)のエコバッグに、片手では持ちきれないほどの野菜や果物を詰め込んだわたしは、バッグへの負担を減らすためにも両手で抱えながらいそいそと歩いていた。

 

地域にもよるが、アメリカ人の多くは車を所有しており、住まいもマンションやアパートというより一軒家で暮らす者が多い。

そもそも、アメリカという国は土地が広大なため、人口密度は世界的にも下位クラス(150位前後)で、一平方キロメートルあたり38人程度とされている。対する我が国日本は、同面積で約340人というアメリカの9倍近い人口密度を誇り、交通インフラの整備による影響もあってか、自家用車を所有する者は減少傾向にある。

 

そして、アメリカ人は車でスーパーマーケットへ買い出しに行き、一週間分の食材を購入するのが日常的。そのため、レジ袋では持ちきれないほどの食材をまとめるのに、トレーダージョーズのエコバッグは非常に便利なのだ。

殊に麻でできたこのバッグは、容量も十分な上に丈夫で持ちやすい。日本で売っている「なんちゃってエコバッグ」などとは比べ物にならないほど、頑丈さに長けており信頼に値するのである。

 

そんな、道着2着が余裕で入るほどのビッグサイズのエコバッグを両手で抱えながら、溢れ出るジャガイモやトマト、キウイ、スイカのバランスを保ちつつゆっくりと歩を進めるわたしは、なぜかふと嫌な予感が脳裏を過ぎった。

(ズボンの左ポケットからキーホルダー部分が垂れ下がっているが、歩く震動でカギが外へ出てしまい、ポケットから落ちる・・なんてことだけは勘弁してくれよ)

 

自宅のカギとクレジットカードが付いているキーホルダーを、ポケットの外に出しているのには理由がある。エントランスでカギを開ける際に、キーホルダーに指を引っかけることでサッと取り出せるからだ。あとは、ポケットが無駄に膨らんでいるのもダサいので、キーホルダーを外に出すことでオシャレな感じを装いたい・・という野心もある。

しかしながら、過去に一度だけキーホルダーごとカギを落とした経験があるわたしは、なぜかふと不安に苛まれたのである。とはいえ、その時は落ちた瞬間に「カシャン」という金属音が鳴ったため、すぐに気づいて拾い上げたのだが、あれ以来「キーホルダーを外に出しておくと、ポケットから落ちる可能性がある」という認識が、わたしの中に少なから芽生えていた。

しかも今は両手で大荷物を抱えており、もしもカギを落としたならば拾い上げるのが一大事。かといって拾わなければ家には入れないし、とにかく「カギを落とさないこと」が重要だった。

 

そうこうするうちに、いよいよ最後の横断歩道にたどり着いた。すると、向こうから二人の男性がやって来るのに気付いたわたしは、突如、ふとこんなことを思ったのだ。

(もしも今、ポケットからカギが落ちればあの人たちが拾ってくれるに違いない。いやいや、こんな大荷物を抱えた姿を他人に注目されるのも恥ずかしいから、何事もなく去ってくれることを願おう)

 

そしていざ、二人の男性とすれ違った瞬間——カシャン!!

なんと、見事なタイミングでポケットからカギが落ちたのだ。そう、さっき頭の中で思っていたことが現実となったのだ。

 

すると、すぐさま「あ、拾いますよ」といって、片方の男性が地面にしゃがみ込んだ。その後、カギを渡すべくわたしと目が合ったその男性は——なんと、わたしの歯の主治医ではないか!!!

 

まさかのタイミングで色々な出来事が重なったわけだが、「そうならないでくれ!」と願うとなぜかそうなってしまうあの現象は、皮肉過程理論(しろくま効果)やカラーバス効果と呼ばれ、「思考を制御しようとする脳のメカニズムが、皮肉にもその対象を探し続けてしまう」という、脳が持つ奇異な特徴として知られている。

だが、今回に限っては「ポケットからカギが落ちる」という、非人為的かつ偶発的な事象を伴う必要があり、それが寸分違わぬタイミングで起きた上に、カギを拾ったのが知人だったというオチは、あまりに完璧すぎやしないだろうか——。

 

これがドラマならば、「カギを拾ったことがきっかけで、その男性と恋に落ちる」というのがお決まりの展開なのだが、残念ながら彼は既婚者でありそういったハッピーエンドは期待できないのが残念。

それにしても、ものすごいタイミングで奇跡が起きたものだ・・と、ヒトが持つ不思議なチカラというか予知能力のようなものを、改めて疑うわたしなのであった。

 

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