(そういえば、「換価(かんか)の猶予」という言葉を初めて耳にしたのは、世の中がコロナで大混乱の時期だったな・・)
あの頃は、得体の知れないウイルスの蔓延により、人々は行動を制限されたり企業は活動停止を余儀なくされたりと、地球上の「時」が止められていた。
とはいえ、水面下で動き続ける企業——すなわち、フィジカル環境に左右されないインターネットの世界は着々と進化を遂げており、それこそYouTubeやネットフリックスといった動画配信サービスや、AIなど人工知能の需要拡大と成長が急加速したのも事実。
そんな未曽有の大混乱の中で、事業活動を停止した(させられてしまった)多くの企業は、従業員へ支払う賃金や公租公課の資金繰りに困り果てていた。
もちろん、非常事態による特例で金融機関からの借入も低金利かつ容易に利用できたが、一時的な延命措置でどこまでつなぐことができるのか、はたまたその先に未来はあるのか・・近代稀に見る視界不良の日々に、事業主らは頭を抱えていたのである。
にもかかわらず、「お上の搾取」は止まらなかった。おそらく国税や地方税もそうだと思うが、社会保険料に関して減額や免除は行われなかった。まぁ、仕方がないことといえばそれまでなのだが、保険料の納付を遅らせる(納付猶予)にも、それなりの申請を行い受理されなければ猶予すら許されなかったわけで。
・・などというと「お上が悪代官」に聞こえてしまうが、売上げが前年同月比で20%減少していたり、コロナが原因で一時的に納付が困難であったりと、当時、どの企業にも当てはまるであろう要件だったため、延滞金なしで最大1年間の納付猶予(納付期限を延ばすこと)が認められていた。
ちなみに、納付の猶予とは別に「換価の猶予」という措置がある。
恥ずかしながら、この「換価」という言葉を知ったのがコロナ禍によるものだったので、個人的には勉強になった案件ともいえるのだが、換価というのは「差し押さえられた不動産や動産、債券などを公売や売却によって金銭に換える手続き」のことを指す。
要するに、(税金や保険料など)公租公課の滞納を弁済する目的で、差し押さえ財産を換金する・・という、強制回収システム(?)なのだろう。
そんな、「換価」という恐るべきシステムの発動を猶予してくれるのだから、なんと素晴らしい制度なのか!と、感動するのはまだ早い。なぜなら、業種によっては事業で使用する機械類を差し押さえられた後に売却される可能性もあるわけで、そうなると保険料の回収が完全に滞ってしまう。だったら、
「財産の換価(差押え財産の売却)は猶予してやるから、事業を継続し収益を上げ未納分の保険料を納付せよ!」
というのが、お上の温情(?)というやつなのだ。そのため、財産の換価(売却)は猶予されるが、保険料の納付は猶予されない。よって、計画的(原則、一年以内)に滞納分を納付しなければならず、それすなわち「現在発生している保険料に加えて、過去の未納分を分割して納付しなければならない」という非情なるダブルパンチこそが、換価の猶予という制度なのである。
念のため、「換価の猶予期間中は、延滞金が一部免除される」という特典はあるのだが、事業主サイドからすると「現状の保険料すら納付が困難だというのに、過去分も上乗せしなければならないというのは、単に未来を奪われる苦役じゃないか・・」となるのは当然のこと。
これがもしも、「今月さえ凌げれば、来月にはドカンと入ってくる!」という話ならば別だが、そのような企業や商売は少ないわけで、過去から現在そして未来へとつながる資金繰りの道は、紛れもなく前途多難なのだ——などと独り言を呟きながら、とある顧問先へ「換価の猶予」を案内するに至ったわたしは、事業を継続することの難しさを痛感させられた。
その会社の社長は、仕事のスキルや経験値も高いうえに人柄も良く信頼に足る人物といえる。そんな彼は、従業員を食わせるべく営業に東奔西走していたのだが、なかなかマッチする案件にたどり着けなかった。
もしも、優秀な営業やエージェントに巡り合えていればこうはならなかっただろうが、誰しもがマルチタスクではないのが世の常というもの。いずれは成功する未来がぼんやりと見えているのだが、いかんせん資金がショートしてしまっては、道が閉ざされてしまうわけで——。
それでもわたしは、彼になんとか踏ん張ってもらいたいと願っている。いかんせん、仕事のできる人物が業界から消えてしまったのでは、それこそ日本の国益を損ねることになる。だからこそ、他人事ではあるがどうにか未来へ繋いでほしいのだ。
この「換価の猶予」がどこまで意味のある助けになるのかは分からないが、なにか少しでも支えとなれれば幸甚である。




















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