ウラベサバイバル(試験で筆記用具を忘れた場合編)

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ーー臨機応変かつ柔軟な対応

 

そう言ってもらいたい。

起きてしまったことはどうしようもないのだから、起きたことに対してどう対処するのかを優先した結果、臨機応変かつ柔軟に対応したと称賛されるべきだ。

 

というわけにもいかないか。

 

 

某国家試験前日ーー

思い返せば大して勉強をしてこなかった。

だが後悔はしていない。

 

それはなぜか。

 

「いつ死んでもいい、今日死んでも構わない」

 

私は人生を賭けた選択を日々繰り返してきたわけで、不勉強を悔やむくらいなら死んだ方がましだ。

 

そう強く自分に言い聞かせ、張りきって耳に鉛筆を挿した。

両耳から飛びでる鉛筆はまるでトマホーク(細長いミサイル)のよう。

 

なぜこの日のことを思い出したのかというと、一冊の本を読んだことがきっかけだった。

 

ボブ・グリーンの著書「CHEESEBURGERS(チーズバーガーズ)」は、複数のショートコラムからなる彼の傑作。

その一つ「大学進学適性試験」の章を読んでいると、試験前に鉛筆の話で盛り上がるシーンがある。

 

「(中略)ひとりが二本の鉛筆を見せていった。受験案内には、『二番の鉛筆二本と消ゴム』を持参するようにという指示があった。『うちの母親ってなんにもわかってないのよ。二本だけじゃなくて、もっと持ってったほうがいい、っていうの。一本が折れたらどうするのかって。わたしいってやったわよ。ママは鉛筆削りってものを知らないのって』

私はおどおどしながら自分のシャツの前ポケットに目をやった。そこには、五本とも折れてしまったときに備えて、六本の細く削った鉛筆が入っていた。」

 

これには笑った。

いるいる、こういうオッサンいるわ。

 

彼は胸ポケットに六本の鉛筆だが、私は両耳に二本の鉛筆を装備している。

私もその場にいれば笑われた口だろう。

 

とにかく前日から用意周到に鉛筆を耳に挿し、翌日の本番に備えた。

 

 

某国家試験当日ーー

試験会場である某大学のキャンパスに着く。

遅刻はしていない、むしろギリギリ間に合っている。

 

教室に入ると私以外はほぼ全員そろっており、参考書や過去問題に目を通している。

 

(ダルいな)

 

他人が努力する姿を見るのが大嫌いな私は、彼らを小バカにするようにため息をつき、自分の机へ着席した。

そして受験票と鉛筆を机に並べ・・・

 

(あれ?)

 

受験票はある。

忘れないようにポケットに突っ込んできたから間違いなくある。

 

しかし、鉛筆がない。

昨日から両耳に装備していたはずの鉛筆が、見当たらない。

今朝、自宅を出たときは耳にちゃんと挿さっていたのに、どこで落としたんだ。

 

まさかの試験前に万事休すーー

 

回りを見渡すも一心不乱に最後の詰め込み作業をしている。

さすがに声はかけられまい。

試験監督官から鉛筆を借りて変に目を付けられては困る。

 

(そうだ、あれしかない)

 

とっさに席を立つと、私は校舎の裏口へ向かいダッシュした。

ーーあそこには鉛筆があるはず

そんな場所を私は知っていた。

 

息を切らしてたどり着いたのは業者の搬入口。

校舎内への入退室時刻を記入するため、鉛筆とノートが設置されていることを思い出したのだ。

読みどおり、そこには名簿と鉛筆がキチンと置いてある。

 

すぐさま鉛筆に手を伸ばし、自分の名前と現在時刻を記入。

そして窓口の奥で腕を組んで寝ている守衛に声をかける。

 

「かならず返すので、この鉛筆貸してください」

 

守衛は驚き、腕をほどくも返事がない。

 

「ちゃんと名前も時間も書いたし、試験終わったら返しに来るから!」

 

そう吐き捨てると鉛筆を奪い、私はその場を走り去った。

 

 

結論からいうと、無事受験できた。

だが、恐怖の連続だったことは伝えておきたい。

 

まず、鉛筆のお尻に付いている消しゴムが古くて(硬くて)、字を消せなかった。

試験開始後すぐに、答案用紙のすみっこに鉛筆で線を引き消してみる。

消えるどころか黒色を塗りたくってしまい、答案用紙が汚れた。

 

(ワンチャンスということか)

 

マークシートを一度塗りつぶしたら、二度と書き直すことができないことを知る。

さらに恐ろしいのは鉛筆だ。

どうやら芯が折れている。

 

幸いなことに深い部分で折れているため、根元をしっかり抑えていればマークシートは塗れる。

親指と人差し指の爪が中まで黒鉛で汚れたが、この芯が終われば私の試験も終わってしまうわけで、試験に集中するどころか芯の延命に注力するハメになった。

 

私は、その時点における私のすべてを捧げベストを尽くす戦い、いや、試験に挑めたことを誇りに思う。

 

 

Illustrated by 希鳳

 

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