「シロガネーゼ」といえば、白金エリアに住む高貴で気品溢れるマダムの総称。そして、かく言うわたしも白金エリア在住なわけで、いわばシロガネーゼの端くれである。いや・・正確には「シロガネーゼの治安維持を担う自警団(一人)」というべきか。
なんせ、白金高輪駅にあるスターバックスで、名前も知らない常連のマダムから「あなたがいてくれるから、今日も安心してこの辺りを散歩できるわ」と、お墨付きをいただくほどの強固な信頼を得ているのだから、わたし自身がシロガネーゼではなくとも、シロガネーゼとの間に深い絆があるのは間違いない。
ちなみに、ぐうの音も出ないほどの確固たるシロガネーゼ・・というのは、白金台の高級住宅街で暮らすマダムのことを指す。タワーだろうがなんだろうが、賃貸マンションなんぞに住む白金デビューの成金ババァ・・おっと、口が滑った。どこからか引っ越してきた金持ちマダムは、真のシロガネーゼではない。生まれや育ちどころか、代々この土地で生き抜いてきた由緒ある家柄のマダムこそが、押しも押されぬシロガネーゼなのである。
よって、白金高輪エリアのそれっぽいマダムは、「準シロガネーゼ」という称号が相応しいのではないか・・と、密かに思うわけだ。
そんな、我らが白金高輪駅の上りエスカレータには、高輪警察署が作成・掲示した「盗撮多発エリア」の張り紙と、アルミホイルのようなミラーシールが貼られている。
こんなもので何を確認するんだ?まさか自分の顔とか??・・と、自身の輪郭すらぼんやりとしか映らないミラーシールを眺めていたところ、なんと、背後の人影が確認できるではないか。
(なるほど・・エスカレータを上りながら、背後に不審者がいないかを確認するための鏡か)
たしかに、必要以上に距離が近かったり不審な動きや姿勢を取ったりすれば、ぼんやりとしか映らないミラーシールでも十分認識することができる。しかも、盗撮する側からしても、こういった鏡があちこちに貼られていたのでは、うかうか撮影などしていられないわけで、これだけでも立派な抑止力となっているのだ。
とはいえ、ミラーシール越しに不審者を発見したとしても、現行犯で捕まえるのは難しい。そもそも盗撮犯は百戦錬磨が多いので、何だかんだで交わして逃走する可能性があるからだ。
(だったらこっちも、さりげなく撮影する手法を使うのが確実だろう)
そう思ったわたしは、スマホをインカメラにして動画ボタンを押してみた。そして、あたかも自撮りをするかのように自分の顔をアップで映しながら、背後に映り込む帰宅途中の面々を凝視した——うん、誰も盗撮などしていない。
これなら、仮にバレたとしても「自分の顔が好きすぎて、ついつい自撮りしてました」で乗り切れる(?)し、もしも本当に盗撮犯がいたとしたら証拠映像として役に立つ。さすがに、背後からわたしを盗撮する物好きはいないだろうが、準シロガネーゼの操を守るためにはこの方法はアリ・・といえる。
それにしても、エスカレータどころか地上に上がっても後を追ってくる怪しい男の存在を、わたしのスマホは見事に撮影していた。真後ろにピタッとついたかと思えば、急に右端へ逃げるように移動してみたり、かと思えば再びわたしの背後をウロついたり——。
(これはマジで、事件の瞬間を激写することになるのかも・・・)
やや興奮気味にスマホを頭上に掲げながら、慎重に撮影を続けるわたし——そう、わたしは自撮りをしているだけ。自分大好きガールなのよ!!
こうして、気付くと自宅マンションの前に到着していた。エントランスの照明により、わたしの顔も男の顔もハッキリと映っている——その瞬間、スマホの画面越しに目が合ったのだ。
「あ、こんばんは」
「こ、こ、こんばんは・・・」
頭上に掲げた画面越しに、夜の挨拶をする居住者二人。もはや気まずさよりも、わたしの不審者っぷりが半端じゃない。
そして微妙な空気のままエレベーターに乗り込むと、それぞれのフロア階を押した。
(このヒト、絶対に自分の部屋を知られたくない・・と思ってるだろうな)
だが、残念ながら最上階のわたしは彼を見送るまでが使命。そして予定通り、5階で降りた彼を見送った後に帰宅を果たしたのである。
*
準シロガネーゼの安全を守るべく、今日もまた新たな手法でパトロールを行う自警団(ただし、一人)なのであった。
コメントを残す