"URABE使い"への第一歩

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年を重ねるごとに自分の年齢が上がっていくのだから、それに比例して年下の人口が増えるのは当たり前なのだが、その年下に飼いならされる傾向にあるわたしは、またしても「餌付け」をされた。

基本的に芋類が好きなわたしは、ジャガイモとサツマイモを交互に・・いや、同時に与えられたら大喜びする。そして調味料が存在しないわが家においては、いずれの芋も素材そのままの味でいただくわけだが、もしも可能ならばジャガイモは塩とバターで、サツマイモは生クリームをたっぷり付けて味わいたいもの。

そんな無類の芋好きに対して、後輩はスイートポテトを買ってきたのである。

 

(あれ?スイートポテト好きだって、言ってあったっけ?)

URABE使いとしてはまだまだ半人前だが、抹茶のスイーツやチーズケーキといった"決して外さないチョイス"ではなく、スイートポテトを選んだあたりは素質がある。しかも頼んでもいないのに貢いでくるのだから、飼いならす気満々なのだろう。——フン、そう簡単に手懐けられるかな。

 

過去には、抹茶好きなわたしに対して「抹茶の粉末が大量に詰まった缶」を与えてくれた後輩がいた。それは水や牛乳に溶かして飲むのだが、ダイレクトに抹茶の粉を贈られたことはなかったので、驚きとともに敬意を表した記憶がある。

・・という感じに、まずは抹茶あたりで切り込んでくるのが通常の攻略方法だが、今回はスイートポテトでの強行突破ということで、まぁお手並み拝見といこうではないか。

 

(・・・オイ、貴様はわたしを何も分かっていないな!)

わたしが食べ物を与えられて、最初に気にするのは原材料欄である。無論、カロリーや賞味期限を確認するためではない。憎き敵・あんこが入っていないかどうかを確認するためである。

それなのにURABE使いの新米である後輩は、事もあろうか「白餡(しろあん)」と記載されたスイートポテトを購入したのだ。白餡・・すなわち白いんげん豆や白小豆を煮て砂糖を混ぜた餡は、言うまでもなくわたしの敵である。黒いあんこよりはマシだが、餡という文字が目に入った時点でテンションがガタ落ちするため、原材料には相当な注意が必要なのだ。

だが、新人というより素人に近い後輩に、この仕打ちはあまりに酷である。若者は育てていかなければならない存在ゆえに、大人なわたしはグッと目をつむった。とはいえ、一応釘は刺しておいたが。

 

そしていよいよスイートポテトを実食する時がきた。そもそも、原材料に白餡の存在を発見した時点で「なし」なのだが、それでもスイートポテトは好物だし、大した量ではないので一気に流し込んでしまえばそれはそれで「あり」だろう——。

そんなことを考えながら個包装を破り開けたところ、なんとそこには「丸いパイ生地」が現れたのだ。スイートポテトだとばかり思っていたが、まさかのパイ生地・・・これは想像の斜め上をいくスイートポテトかもしれない。

 

こうしてわたしは、キレイに磨きあげられた丸い石灰岩のようなスイートポテトパイにかぶりついた。サクサクというよりはしっかりとした噛み応えのパイ生地の中に、上品な甘さのスイートポテトが包まれている。何度か咀嚼するも、敵の味・・小豆の風味は一切感じられない。

そんな事実にホッとしながら、立て続けに三つのスイートポテトパイを口へと放り込んむわたし。

(・・・普通に美味いな、コレ)

 

 

結局、二分とかからずに「貢ぎ物である白餡入りのスイートポテトパイ」は胃袋へと送り込まれたわけだが、予想以上にわたし好みの味だったことと、なによりも後輩の気遣いが嬉しかった。

むしろ、憎き"おはぎ"や"あんまん"をもらったとしても、わたしを思ってそれらに手を伸ばしたのならば、その気持ちだけで美味いに決まっている。

 

これからも、どうかたくさんの食べ物がわたしの元へ届くように、後輩らの育成に力を入れようと誓うのであった。

 

llustrated by おおとりのぞみ

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