牛丼嫌いの私が吉野家に足を踏み入れたならば

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わたしは、牛丼という食べ物を食べたことがない。いや、それっぽい丼ものは食べたことがあるが、いわゆるチェーン店の牛丼は食べたことがない。なぜなら、牛丼に乗っかっている肉が食べられないからだ。

かつて・・あれは学生時代だっただろうか、友人と某牛丼チェーン店を訪れたとき、わたしは「牛丼大盛り、つゆだく、ネギだく、肉ナシで!」という、摩訶不思議な注文をしたことがある。店員は呆れた顔をしていたが、肉を取り除いてつゆとネギだけを盛るのは困難だったらしく、肉の破片が入った玉ネギと大盛りの白米がつゆに浸された"汁飯"を、目の前に置かれたことがある。

(牛丼の面影は微塵もないな・・)

それでも、肉の風味が残る汁飯は普通に美味かったので、こういうメニューを作ればいいのに・・と、他人事のように思った記憶がある。

 

あれからかなりの時を経て、わたしは牛丼大手である「吉野家」の暖簾をくぐることとなった。——そう、この一歩は大きい。一人では、挑むことも達成することもできなかったであろう偉業を、友人の誘いに乗ることですんなりクリアできたのだから素晴らしいことだ。

(・・えっと、券売機はどこだ?)

店内でキョロキョロするも、給茶機以外にマシンらしきものは見当たらない。ではレジで注文するのか——?いや、違う。カウンターテーブルに目をやると、一席に一台のタブレットが設置されており、どうやらあれで注文する模様。

さっそく席に着いたわたしは、タブレットをタップするとメニューを開いた——ものすごくたくさんある。

 

牛丼店だから牛丼があるのは当然だが、牛すき鍋や牛カレー、はたまた牛オムカレーまで用意されている。おまけに唐揚げやらうな重やら、牛丼とは関係のない膳モノまで雁首を揃えて並んでおり、もはやちょっとしたファミレスといっても過言ではないラインナップ。

しかしながら、そもそも牛丼を食べないわたしはそれ以外のメニューに目を走らせていたところ、なんとも素晴らしいプレートにたどり着いた。——それは「朝食」だった。

 

残念ながら朝食メニューを注文できる時間は過ぎていたが、その次のページにある「サイドメニュー」で単品を組み合わせると、わたし好みのランチプレートが完成することに気がついたのだ。

(おぉ、素晴らしい!ご飯とオムレツだけで十分だが、ついでにみそ汁も頼んでおくか・・)

 

こうして、わたしの人生初となる吉野家のメニューは、白米とオム玉子、そしてあさり汁・・という、シンプルかつバランスのとれた布陣にて注文を済ませたのである。

 

当たり前といえば当たり前だが、吉野家の米は美味かった。国産米を中心に外国産をブレンドした米を使用しているとのことだが、業務用米と比べると桁違いの美味さであり、わたしは密かに感動を覚えた。

(これならば、TKGでも納豆ご飯でもなんでもイケるな)

そういえば、わたしには米を米だけで食べる習性がある。よって、今回も米を食べきってからオム玉子を片付け、最後にあさり汁を飲み干し食事を終えた。——このクオリティならば、吉野家で十分だな。

 

今までは食わず嫌いというか、そもそも牛丼店の存在など気にしていなかったし、コンビニと吉野家があれば一ミリの迷いもなくコンビニを選んできたため、吉野家が誇るラインナップを知る術もなかった。だが、こんなにも豊富なメニューが揃っているならば、もはやコンビニになど用はない。

ご飯、納豆、のり、生卵、鮭、塩サバ、みそ汁、トン汁、サラダ、キムチ、ねぎラー油、オム玉子、クワトロチーズ・・・あぁ、なんと魅力的なプレートだ。いや、むしろこれだけでスペシャルプレートが完成するのだから、吉野家という店は最高ランクの飲食店といえるのではなかろうか——。

 

 

熱々の緑茶(無料)で喉を潤しながら、「もっと早く、吉野家の門をくぐっておくべきだった」と、今さらながら反省するのであった。

 

Illustrated by 希鳳

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