臨月を迎えて思うこと

Pocket

 

周囲の友人らが出産ラッシュで賑わう中、ついにこのわたしも臨月を迎えることとなった。まだ誰にも報告していなかったので、まさかのカミングアウトに驚く面々も多いことだろう。だが勘の鋭い女性陣ならば、あるいはすでに気づいているやもしれぬ・・そう、腹の膨らみだ。

 

臨月ともなると、腹部の膨らみは最高潮となり、日常生活でも気を付けなければならないことが増える。たとえば、突出した腹を支えるべく反り腰になり、腰や背中への負担が増えることだ。そりゃ、3キロの錘(おもり)を腹部に抱えているのだから、体重が前傾してしまうのは当然のこと。そのため、なるべく椅子に腰かけるなどして、正しい姿勢を保持することが重要となる。

他にも、突出した腹部により足元が見えない危険性がある。たとえば下り階段など、ステップを踏み外しそうになる時もあるため、手すりにつかまりながらゆっくりと降りる必要がある。また、腹部にのみ集中的に重みがかかっていることから、体全体のバランスが悪くなっているので、転倒にも気を付けなければならない。うっかりバランスを崩してしまったならば、柔術で習った「受け身」をとることで衝撃を分散させ、怪我予防と胎児の安全を守らなければならないわけで。

 

しかしながら電車やバスに乗れば、臆することなく「優先席の利用」ができるので、満員状態の車内でも座席の確保に苦労することはない。これが妊娠初期だと、外見的な特徴が顕著に現れていないため、なかなか乗客らに気づいてもらえない。無論、マタニティーマークをぶら下げていれば違うだろうが、あいにく手ぶらで乗車することの多いわたしにとっては、この突出した腹こそが妊娠の目印なのである。

 

そしていよいよ、腹回りの太さに磨きがかかってきた先日の出来事——。ウエスト部分がゴムでできた短パンに着替えようとしたところ、最大限に伸びたゴムでも対応できないくらいに腹部が突出していることから、太ももあたりで立ち往生してしまう・・という事件があった。

その場にいた友人は、震える手で顔を覆いながら

「ごめん、手伝いたいけどそれは無理・・」

と、涙目で着替えを手伝うことを拒否した。なぜなら、よくよく見ると腹で支(つか)えているのではなく、尻で支えていたからだ。短パンのウエスト部分よりも明らかにサイズオーバーした尻が、短パンの上に乗っかっているのだからどうしようもない。

 

わたしとしては「餅つきのモチを丸め込むように、わたしの尻をズボンの中へ押し込んでもらいたい」と思っていたのだが、友人はそれどころではないくらいに涙を流して笑っているので、協力を仰ぐのは困難と判断した。

そこでわたしは、その場で小刻みにジャンプを繰り返した。飛び出た尻の内容物は、主に脂肪と水分である。ならば上下に振動を与えることで、重力によりズボンの中へ尻を流し込むことができるのではないか——と考えたからだ。

 

そして友人との会話を続けながら2分・・いや5分ほどジャンプを続けた結果、わたしの尻は見事にズボンの奥へと滑り込んでいったのである。

 

 

もうここまでくれば、臨月の嘘もバレているだろう。であれば正直に話そう。何を隠そう、わたしは今とても太っている。本場アメリカ仕込みの太り方であり、ちょっとやそっとのことではブレることのない、見事に膨らんだ腹を装備しているのだ。

そのおかげで下を向くのも一苦労、帰宅すればまるでトドかマグロのようにドデーンとひっくり返っているのだから、日常生活に支障が出ているといっても過言ではない。

おまけに先述したとおり、腹は妊婦のごとく飛び出ているわけで、ウエストがゴムのパンツですらあの有り様。こうなったらもはや妊婦を貫くしかないだろう。

 

そんなこんなで、「だったら食べる量を減らせばいいじゃないか!」とお叱りの声が飛んできそうだが、そんなことはできるはずもない。なんせわたしは、「いつ死んでも悔いのない人生を歩んでいること」だけが唯一の自慢である。よって、最大の欲求である"食欲"を抑えてまで痩せよう・・などとは到底思えないわけで、そんなくだらない我慢をするくらいならば、太り続けたほうがマシである。

——だからわたしは、太っているんじゃあないか!

 

Illustrated by 希鳳

Pocket

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です