野生児、シャワージェルを塗る。

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(おぉ!なんかいい匂いがするし、体がキレイになった気がする・・・)

 

わたしは今日、海外のホテル以外で初めて、シャワージェルなるものを使用した。アレがこんなにもいい香りで、体がものすごく清潔になった感覚になるとは、予想だにしなかった。

 

 

その昔、ヨーロッパのホテルに宿泊した際に、アメニティーグッズの中にボディーソープがないことに困惑した。

小さな薄っぺらいハンドソープはあるし、シャンプーとコンディショナーもある。しかし、体を洗う石鹸またはボディーソープ的な存在が見当たらないのだ。

 

(フランス人は一週間風呂に入らないと聞いたことがあるが、まさか、そういうことなのか――。)

 

やむなくハンドソープで体を洗おうかと思っていたところ、トレーの底にもう一つ、なんらかのグッズが寝ていた。取り上げてみると、そこには「シャワージェル」と記載がある。

シャワージェルって、なんだ・・・?

 

少なくとも、シャワーの際に使用するジェルなのだから、これこそがボディーソープの代わりとなるものだろう。

シャワーの蛇口をひねったわたしは、さっそく、シャワージェルの切り口を破ると手のひらへ絞り出した。

 

ニョロニョロと現れたのは、水との相性が悪そうな、弾力性に富んだジェル状の物質だった。「シャワージェル」というくらいだから、ジェル状で間違いないのだが、それにしてもこれが肌になじむとは思えない。

通常、洗顔料でもボディーソープでも、濡らした手のひらでこねて泡立てるもの。しかしこのジェルは、何度こすり合わせても泡立つどころか手のひらから消えていくではないか。

 

不思議に思ったわたしは、再びシャワージェルを絞り出すと濡れた両手で泡立て始めた。

だが何度トライしても、やればやるほどシャワージェルが消えて行くのだ。

 

(なんの嫌がらせだ?これは、こうやって使うものではないのか??)

 

個包装を覗くとジェルの残りはほとんどない。しょうがない、このジェルを直接腕に塗ってみよう――。

無論、腕に塗られたジェルは摩擦とともに消えていく。泡立つ様子など微塵もないし、それでいて皮脂や汚れが落ちる気配もない。

 

(いったいなんなんだ??シャワージェルって・・・)

 

結局、ハンドソープで体を洗ったわたしは、あれ以来シャワージェルが嫌いになった。使い方も分からない上に役立たずなわけで、あんなものを喜んで使う欧米人の気が知れない。

日本人たるもの、石鹸にかぎる。

 

 

「これ、使ってみる?」

 

友人が小さなボトルを差し出してきた。見るとロクシタンのシャワージェルだった。

 

(あぁ、あの使い物にならないシャワージェルなんてものを、ロクシタンというブランドに踊らされて使っているのか。なんと哀れな友人だろうか・・・)

 

普通に断るものも気が引けたため、当たり障りのない質問をしてみた。

 

「これって、ボディーソープとは違うでしょ?泡立たないし」

 

すると友人は、

 

「同じだよ。泡立つし、いい匂いもするから使ってみたら?」

 

と、さらに勧めてきた。

――ウソだ。この独特でタフなテクスチャーは、水との相性が悪い。そのため、肌に直接こすりつけても伸びないため、なんの役にも立たないのだ。

そんなこと百も承知で、なぜウソをつくのか。

 

しかしここで、わたしは思った。初めてシャワージェルと対峙したのは、もはや30年以上前の話。時代は変わっているわけで、もしかするとあの頃とは違うのかもしれない。

よし、友人の顔に免じて騙されてやろう。

 

こうしてわたしは、シャワージェルの小瓶を片手にシャワールームへと消えたのである。

 

(・・・やっぱり)

 

案の定、シャワージェルはどんなに泡立てようとしても何も起こらない。むしろ、こすり合わせれば合わせるほど、液状化現象で消えていくのだ。

・・・はぁ。なにがボディーソープと同じだ。こんなもの、ただの透明なジェルじゃないか。

 

とりあえずジェルを手のひらに載せると、そのまま手足に塗りつけてみる。泡はまったく発生しないが、何もつけないよりは何かつけたほうがマシだろう。

こうして、全身くまなくジェルを塗りたくった後にシャワーで洗い流した。

 

(・・ん?これって、洗い流しちゃっていいのか?たとえばヘアトリートメントなら、さっと流す程度で十分のはず。シャワージェルの場合、どのくらい洗い流すのが正解なんだ??)

 

一瞬手を止めたが、考えたところで答えは出ない。よって、しっかり洗い流すわけでもなく、かといって残骸が残るほどでもなく、そこそこ洗い流す程度にとどめた。

 

そのせいだろうか、なんとなくいい匂いがする。ロクシタン特有の、南フランスにあるプロヴァンス地方を彷彿とさせるような、ちょっとシャレた香りである。

おまけに、顕微鏡でも当ててみなければわからないが、皮膚がキレイになった気もするではないか。

 

(フランス人は、こんな感じでシャワーを楽しんでいたのか・・・)

 

エシレバターに限っては、バターに齧りついて食べる習性のあるわたしは、きっとフランスにルーツがあるのだろう。

そして今日、シャワージェルとやらの魅力にとりつかれたわたしは、さっそくネットでロクシタンのシャワージェルを購入したのである。

 

昨日までは、

「皮脂なんざ、40度のお湯で洗い流せば落ちるんだよ!」

と息巻いていた野生児が、今日からはなんとシャワージェルを使いだすだなんて、まったくこの世は何が起きるか分からないものだ。

 

サムネイル/ロクシタン・ラベンダーシャワージェル

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