心の声が漏れやすい人々

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(なんだよこの長蛇の列は)

 

洒落たカフェの窓伝いに、暇そうな女どもが並んでいる。前のババァらは子どもの受験話に花を咲かせているし、後ろの女子は無言でケータイをいじっている。

まぁすることもないし、こうなるのは仕方がないのだが。それにしても、昼下がりのこの時間に、なぜシャレオツカフェはこんなにも混むんだ。

 

「足元の黒い線より内側に並んでくださーい」

 

涼しい店内から店員のチャンネーが出てきた。化粧崩れどころか、脂一つ浮いていない綺麗な顔だ。

そりゃアンタはいいよな、エアコンガンガンの店内でウロウロしてればいいんだから。

 

上級国民である店員の指示に従い、我々下民は店と歩道を仕切るガラス壁に沿って並び直した。ふと目があった女は、一人で三人掛けのテーブルを占領している。

待ち合わせかもしれないし、当時は混んでなかったのかもしれない。だが今となっては完全に非難の的。

 

(こいつを相席にすりゃいいのに!)

 

ガラス越しに店内を見渡すと、独りの客がポツポツと目につく。アイツら全員かき集めれば、テーブルがいくつ空くことか。

 

直射日光照りつける屋外で熱中症と戦うあたしは、一人誇らしげにケーキを頬張るクソ女を睨みつけてやった。

 

 

(育ちが悪いって、こういう輩のことかしら)

 

明らかに見下した表情で、ワタシはその野蛮なオンナを見つめた。

 

時と場合によっては、自ら望まなくともヒエラルキーに当てはめられてしまうのが、この世の怖いところ。

そしてワタシは頂点の階層に君臨する、いわばお姫様。で、あのオンナは、哀れにも最下層の底辺を支える塵。いいえ、哀れなんかじゃない。とてもお似合いだわ。

 

灼熱の太陽に焼かれながら、ダラダラと汗を垂らす姿は、まるで理性を失った野生のゴリラのよう。

あぁ、素晴らしいわ!ワタシときたら、寒いくらいの店内で「季節のタルト」に舌鼓を打ちながら、野生動物を観察できるんですもの!

 

店内でゆったりとくつろぎながら、違う世界の様子を眺めるのは気分がいい。

もちろんワタシは、お金持ちのお嬢さまなんかじゃないわ。ただ、今この瞬間において、ワタシは紛れもなく選ばれし人間よ。

だってほら、ガラスの向こうでは動物たちが蠢(うごめ)いているんですもの!

 

それにしてもあのゴリラ、さっきからこっちを見過ぎじゃないかしら。気持ちワルイ。店員に言いつけて、追い返してやろうかしら。

 

**

 

(多少ぶつかったって構わない。車道ギリギリに立っとけば、遠くのタクシーも見つけやすいだろう)

 

どのタクシーも「空車」の赤い文字が見えない。それにしても紛らわしいのは、「回送」のオレンジ色の文字だ。

西日がモロに当たる車のフロントガラスは、かなり近くまで来ないと反射で何も見えない。そのため、私は車道に踏み込んでタクシーを待った。

 

最初から手を挙げて立っていればいいんだけど、それもなんだかアホっぽい。せめて空車を確認してから合図したいものだ。

しかしガラスの反射は強力で、まるで鏡のよう。眩しい光に目をやられそうになりながらも、なんとか身を乗り出して空車のタクシーを探す。

だがこんな時に限って、何十台ものタクシーを見送るハメになる。時間が悪いのか?それとも場所が悪いのか?

 

通り過ぎる車の運転手は皆、あからさまに邪魔であることを示している。中にはスピードを落とさずに、ギリギリのところを走り去る不届き者もいる。

あれでもし、誤って私にぶつかりでもしたら、どう責任を取るつもりなんだ?これだから、いきがったオツムの弱い野郎は困る。

 

しかし皆さん、飛ばしすぎだろ?ここに人間様が立っているというのに、そんな猛スピードで駆け抜けるとはいい度胸だ。

なんなら一度、当たってやろうか?

 

 

「運転手さん、あいつ轢いちゃっていいんじゃないすかぁ?」

 

アタシは急いでいる。だからこそこうして、タクシーに乗っている。

それなのにあのバカ女、なんで車道にはみ出て立ってんのよ?まるで轢き殺してくださいって頼んでるようなもんじゃない?だったらお望み通り、ドーンと一発かましてやればいいのよ!

 

歩行者も自転車もそうだけど、なんであいつらは車道ギリギリにはみ出てくるのかしら。時速40キロの鉄の塊と、ちょっと触っただけでも血が出る柔な人間とで、真っ向勝負ができるとでも思ってるのかしら?

ていうか、そもそもバカなんでしょうね。車が百パーセント避けてくれると勘違いしてるからこそ、ああやって危険な場所に平然と立ち尽くすことができるわけで。

 

マジでああいうのは、一度痛い思いをするべきよ。

今でこそ暴力だのなんだの言われる時代になったけど、それでも、注意されただけで愚行を改める人間なんてほんの一握り。残りは全員、体で覚えなきゃ分からないような、いきがったバカばっかりなのよ。

 

さすがに殺しちゃまずいけど、ちょっと当たって骨折くらい味わえば、さすがに二度と車道でふらつくような真似はしないでしょう。

あぁ、それにしてもイラつくわ!あんたのせいで信号に引っかかっちゃったじゃない!

 

サムネイル by 希鳳

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