ユニック18時間耐久レース

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この二日間で1,400キロもの大移動を果たした私。距離だけならば、自宅から北海道の稚内市、または鹿児島県の鹿屋市を訪れたくらいの遠さだが、注目すべきは移動手段だ。

今回、総距離の85%にあたる1,200キロを、トラック(ユニック)で移動したのだ。

 

ユニックとは、クレーン付きトラックのこと。そしてこのユニックで移動のどこに問題があるのか、業者でなければピンとこないだろう。

ユニックはそもそも、長距離を移動する前提でつくられていない。体を支える硬いシートにはリクライニング機能など一ミリも付いておらず、公園のベンチと同じ形をしている。

直角に座るしかないベンチシートは、横から見ればピシッと背筋を伸ばした姿勢のいい人だが、シートを倒して一休み…などという生ぬるいことは許されず、足元の狭さやダッシュボードの近さは、エコノミー症候群を引き起こすのに最適な設計となっている。

 

そんな過酷な環境で18時間も拘束されたまま、私は1,200キロの距離を耐え忍んだのだ。

 

途中で幾度となく、正座ができることの幸せについて思いを巡らせた。小学生のころ、床に正座をさせられて説教をくらった記憶があるが、むしろ今、説教をされたい気持ちで一杯になる。

なぜなら、車を運転していては正座はできないからだ。

長時間正座をすれば足が痺れる。だが今は、足が痺れるほどふくらはぎの上に体重を乗せてみたいものだと、ないものねだりが止まらない。

 

私の愛車である、スカイラインHR30(ダミアンヌ)は、ユニックのベンチシートよりも硬い素材の、フルバケットシートが取り付けてある。

ちなみに「バケットシート」とは「バケツ型の座席」という意味で、尻や肩を深く包み込む形状が身体の固定機能を高める。F1などのカーレースで、横Gによって運転姿勢を崩さないためにも、バケットシートが採用されているのは有名な話だろう。

そんなバケットシートのダミアンヌに何時間座っていようが、直立座位の姿勢で一晩眠ろうが、尻が痛くなったことなど一度もない。それほどまでに、尻を包み込むあの丸みは重要であり、長時間運転する際はバケットシートを推奨したいわけだ。

 

そして残念ながら、公園のベンチに布をかぶせたかのようなユニックのベンチシートでは、500キロも走り続けると尻や背中が痛くなる。さらに、シートベルトのせいで自由がきかない上半身により、首と腰がおかしな位置で固定され続けた結果、むち打ちのような痛みと可動域異常が現れる。

ベンチシートは背もたれが直角にできているため、長時間座り続ければストレートネックを引き起こすことは想像に難くない。だがそれでも私の到着を待っている人がいるわけで、ここで止まるわけにはいかないのだ――。

 

なんだかんだで往路は、それなりに元気な状態で目的地へたどり着くことができた。

 

 

現地を出発した時間が遅かったため、滋賀県の大津サービスエリアで琵琶湖を眺めながら仮眠をとることにした。無論、深夜に琵琶湖を見たとて、真っ黒で巨大な水面が静かに横たわっているだけで、美しさや感動といったものは一切感じられなかった。

 

そして問題は仮眠の姿勢だ。しつこいようだが、背もたれが直角のベンチシートでどうやったらくつろげるというのか。作業道具や荷物もたくさん載っているため、車内で人間が横になるスペースなど皆無。あるとしたら、フロントガラスとダッシュボードの間の、あのくぼみくらいだ。

さすがにユニックで、フロントガラスの真下に横になる勇気はない。そこで、せめてダッシュボードにもたれかかりながら睡眠姿勢を確保することにした。

その昔、横になっている人間の下にある台をどかしても、人間が落下しないマジックがあったが、それと同じ要領で助手席側のダッシュボードに頭と肩を乗せると、背中と尻は浮かせたまま、シートにあぐらをかいて目を閉じた。

 

数時間後、外の明るさで目が覚める。4時半にはすでに朝の気配となるこの季節、フロントガラスから降り注ぐ薄明に耐えきれず、私は目を開けたのだった。

すると、なんともアクロバティックな体勢で寝ていたことに気付く。頭と肩はダッシュボードの上だが、左足の裏で背もたれを踏みつけ、右足のスネで助手席の窓ガラスを蹴りつつ、胸の上で腕組みをしながら、アイマスク代わりに口用マスクを目にかぶせた状態でぐっすりと眠っていたのだ。

つまり私の体は座席から浮いており、ダッシュボード以外で下から体重を支えている部分はなかったのだ。

 

(傍から見たら、ヨガの達人が瞑想してる風にに見えたかな…)

 

 

こうして私は、ベンチシートの洗礼を受けながらも18時間の耐久レースを完走することに成功した。だが最後の最後、東京へ戻るための200キロは、新幹線と埼京線という立派な乗り物を選んで爆睡したことは、ここだけの秘密にしてもらいたい。

 

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