昨日に引き続き足立区をヨイショする内容となってしまうが、とはいえ、これこそが長年培われてきた23区ごとのイメージであり、ある意味信頼に値する”事実”なのである。
ではいったい、どのようにして足立区が登場するのかというと、とある閑静な住宅街で起きた事件が引き金となった。その事件とは、アカデミックな街として有名な文京区に住むお嬢さま(友人)が、突如現れた不審者にイチャモンをつけられたあげく、路上で火のついたタバコを投げつけられる・・という、なかなか穏やかではない出来事。
事の発端はスーパーでの買い物途中、お嬢さまが所有する大き目なトートバッグと不審者たる男の「ネギ」とが接触したことに起因する。そして、ネギがあまりに可哀想に思えたのか、男は「謝れ!そしてネギを弁償しろ!」と凄んで、お嬢さまの後をつけまわしたのだそう。
無論、彼女は何度も謝罪をして立ち去ろうとしたわけだが、その男はネギの気持ちは分かってもヒトの気持ちは理解できないらしく、執拗に攻撃を続けた模様。しかも、こともあろうか火のついたタバコを投げつける・・というから、もはや正常な精神状態ではない。
当然ながら、身の危険を感じたお嬢さまは警察署へと駆け込んだ。そして、事情聴取後に警察官が、「でも、ネギにダメージは見られないよ」とか「会計前なら、ネギを交換してもらえばよかったのでは」などと、誰もが感じるであろう正論を男に向かって述べたようだが、ネギ男はイライラした様子で貧乏ゆすりをしながら、最後までその意見は聞き入れなかった。
それにしても、文京区といえば東京大学をはじめとする学術・研究機関が集約し、”知の象徴”とされるエリアである。加えて、六義園や小石川後楽園などの名園や、湯島天満宮に根津神社といった格式高い社寺が点在し、古き良き時代が垣間見える洗練されたスポットとしても有名。また、夏目漱石や森鴎外など多くの文学者が生活の拠点としていた地域でもあり、都心でありながらも喧騒は少なく、治安はかなり良好とされる上品な街である。
にもかかわらず、イチャモンをつけたあげくに火のついたタバコを投げつける・・などという蛮行に及ぶ者がいるとなると、格式高い文京区が凋落の危機である。そんな重大ニュースを聞きつけたわたしは、すぐさまお嬢さまに「足立区の石井(仮名)」を召喚するよう告げた。
もちろん、シロガネーゼとは名ばかりで港区の底辺を支え続けるこのわたしも、すぐさま駆けつける所存ではあるが、どう考えても今回は港区案件ではなく足立区案件だろう。所詮、われら港区民はぬるま湯につかったボンボン風情である。カネでどうにかなる・・と、心のどこかで高を括っており、実際に面と向かって勝負を挑まれたりすれば、泣きながら土下座をするのがオチ——。
だがこのわたしは違う。いうまでもなく、お嬢さまのために最後まで身を挺して戦う覚悟はあるが、とはいえオンナの細腕なんかよりもオトコの太い腕のほうが頼りになる。しかも”最恐”と謳われる、足立区竹ノ塚で磨き上げてきた石井(仮名)の腕っぷしは、そんじょそこらの粋がった若者では敵わないレベルの実績がある。
(やっぱり、頼りになるのは足立区なんだよな・・)
この瞬間、わたしは改めて思った。崖から落ちそうになっている最中(さなか)に、差し出されたいくつかの手があるとして、自分ならばどの手を掴むだろうか——。
イケメンの白くて細い腕も握りたいし、手入れの行き届いた金持ちの美しい手にも触れてみたい。変人ばりの優秀な頭脳の持ち主の手も、生き残ったならば価値があるかもしれないし、わたしのために必死に手を伸ばす友人の手も無下にはできない・・でも——。
自分の命がかかった場面でどの手を掴むのかといえば、筋骨隆々でわたしのことなど片手で持ち上げられるオトコの腕を選ぶだろう。しかも、できれば現場経験のある腕がいい。「今まで一度も、ウエイト以外で重いものを持ったことはありません」ではなく、日頃から力仕事に従事しており、ニンゲンでも岩でもかかってこいや!くらいの意気込みが欲しい。
そして、勝手な独断と偏見ではあるが、そんな逞しい漢気あふれる腕は足立区に多い・・と踏んでいるのだ。でなければ、23区最恐など名乗れるはずもないわけで——。
*
というわけで、港区在住の偽シロガネーゼではあるが、文京区や目黒区、杉並区などの弱そうな・・いや、平穏そうな区が有事の際には、足立区に負けず劣らずの腕力と凄みを蓄えておこう——と、密かに誓うわたしなのであった。
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