ーーこ、これはメルサドの再現か。
およそ10年前、イランの防空システム「メルサド」についてのニュースを見た。メルサドには地対空ミサイル「シャヒン」が組み込まれている。
先端は尖がっているがお尻に三角形の羽を4枚備えたシャヒンは、円筒にもかかわらずやや三角錐(すい)に見える。
不覚にもわたしは、目の前に運ばれてきたみずみずしい「イチゴのパフェ」を見て、イランの地対空ミサイルを思い出してしまった。
*
女子とパフェを食べた。
日曜午後の赤坂はゴーストタウンの静けさ。最も多い人種は警察官で、本日は特に人数が多い。春の嵐の中、文句も垂れず横殴りの雨に撃たれながらも、右翼を監視しているわけで頭が下がる。
そんな殊勝な公務員の姿を見た直後に、四方へ先端が向けられた攻撃的な盛りつけのイチゴパフェを見たため、つい国防の意識が働いたのかもしれない。
生クリームてんこ盛りのパフェの頂上には、見事な紅ほっぺ(静岡県産のイチゴ)が女王のごとく君臨する。その下で4人の家来どもが周囲へ矛先を向けて女王を守っている。
パフェにイチゴが乗っているのはごく普通のことで驚きもしない。たまにイチゴを縦に割って生クリームに貼り付けていることすらある。つまり、2個のイチゴを4分割して見た目4個のイチゴが乗っているように見えるが実は2個というアレだ。
だが、イチゴが外を向いて所狭しとひしめき合う姿は見たことがない。
たしかにイチゴのてっぺんを上に向けようとするから無理がある。お尻の部分が大きく膨らんでいるため、器からはみ出すとバランスが悪い。客のテーブルまで運ぶ途中に転げ落ちでもしたら、店にとっては大打撃。
その点、メルサドのようにミサイル(イチゴ)を外側へ向けて並べれば、重たいお尻が器の内側に収まり、軽い先端が器の外に飛び出るだけでバランスは悪くない。
さらに食べる側もイチゴを丸々4個+頂点の1個の計5個も食べられるわけで、Win-Winだ。
今回のパターンは客が喜ぶ盛り付けであり大いに結構。
しかし、わたしが許せないパターンがある。これだけは絶対に許せない。
「コーンフレークでカサ増し」
コーンフレークに限った話ではない。スポンジケーキやパイ生地なども断じて許せない。
想像してほしい。
のどがカラカラに乾いた真夏のある日、冷たいスポドリを一気にゴクゴク飲みたいと思ったとする。その時、冷たい飲み物とはいえ「牛乳」を出されたらどうだろうか。はたまたアツアツのコーヒーなど出された日には、コーヒーをぶちまけることだろう。
これと同じ理屈だ。
パフェといえば生クリーム。そこへイチゴやメロン、マンゴー、バナナが突き刺さっている。中間地点の地盤を支えるため、アイスクリームが基礎として打たれる場合もあるが、基本的には容量の大部分は生クリームとフルーツでできていなければならない。
それが、だ。
スプーンで掘り下げていく途中、カサカサとコーンフレークに触れたとき、殺意が湧く。
生クリームとフルーツのまろやかでフレッシュな歯ごたえと舌ざわり。それを一気に台無しにする、あの固く乾燥した不愉快な存在。
「歯ごたえがお気に召さないのであれば、柔らかくしましょう」と、パイ生地やスポンジケーキにすり替えたところでわたしの殺意は消えない。そういう問題ではないからだ。
ちなみに百歩譲って「ゼリー」ならば許せる。
ゼリーはみずみずしいし、生クリームやフルーツとの親和性も高い。舌ざわりも滑らかで嫌悪感がない。
かさ増し目的で杭を打つならば、コーンフレークのような粉ものではなくゼリーにしてもらいたい。
「お口直しの意味も含んでいるんですよ」
「ショートケーキを思い出してください」
ーー黙れ。
そんな低俗な言い訳をぬかすなら、器を小さくすればいいだろう。見栄を張って大きな器に盛りつけるから、容量が足りずに「かさ増し要員」が必要となるだけのことだ。
本日のこの店を見てみろ。器の底まで真っ白。
これこそが真のパフェであり、客が求める一品だ。
*
向かい側で友人が黙々とイチゴを消費する。
おこぼれをじっと待っていたが、気づくと器は透明になっていた。
結局、メルサドにもシャヒンにも触れることなく、わたしの防空任務は終わってしまった。
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