偽遠雷

 

——この時期に遠雷とは、珍しいな。

机に向かって仕事をしていたわたしは、窓の隙間から聞こえる微かな雷鳴とともにわずかな振動を感じた。そう、遠くで雷が鳴っているのだ。

たしかに、先ほどまでこの辺りは小雨が降り続いていた。今現在の空模様がどうなのかは分からないが、かなり離れた場所で落雷が頻発していてもおかしくはない。

 

ヒトというのはなんとも勝手な生き物ゆえに、己の身が保障された安全な場所にいる際は、台風や雷といった自然現象をポジティブに受け入れる傾向にある。

いわゆる「対岸の火事」というやつで、被害に遭っている者がいるやもしれない状況でも、自分自身の安全が確保できているならば、それはある種のエンターテインメントのごとく興味深い現象として捉えられるのだ。

無論、己の身に降りかかる災難となれば、なりふり構わず必死に助けを求めるわけだが、殊に雷など建物の中にいれば大きな被害を受けることもないため、「おぉおぉ、遠くで雷が落ちまくっているわ!」などと、呑気な他人事として片づけられるのである。

 

それにしても、落雷というのはどう考えても痛いだろうし、最悪の場合命を奪われるのだから恐ろしい。

今のご時世、高いマンションや電柱などヒトよりも高さのある構造物が避雷針となり、雷が落ちるとしたらそちらが標的となる可能性が高い。とはいえ、横断歩道を渡っている瞬間など、近くに避雷針となるものが存在しない状況で落雷に遭えば、まさかの”帰らぬ人”となることだってあり得る。

 

実際に落雷のエネルギーを調べてみたところ、電圧は数千~1億ボルトで家庭用コンセントの数十万倍。電流は数万~20万アンペアで家庭用ブレーカーの数千倍。そして、温度に関しては2万~3万℃で、太陽の表面温度(約6千℃)の5倍相当という熱さを誇る。

なんせ、砂漠や砂地に雷が落ちると、砂が超高温で一瞬にして溶けてガラス(フルグライト)になるのだから、その破壊力たるや恐ろしすぎる。そんなものが人間に直撃したら、無事では済まないことくらい想像に難くない。

 

とはいえ、落雷による生存率は70~80%とまさかの高い数字が示されており、ヒトは意外と強い生き物らしい。しかしながら、衝撃による鼓膜破裂や心肺停止、内臓や筋肉といった身体内部の重度な火傷など、やはり無傷では終われない場合が多い。

仮にそれらの症状が治まったとしても、雷の音や稲光によって落雷の恐怖がよみがえり、パニックを起こす可能性は高いだろう。そのくらい、一瞬にしてヒトの命を奪う雷は、自然現象の中でも群を抜いて恐ろしい存在なのである。

 

だが今、わたしは安全な室内で身を潜めており、万が一にも落雷によって死ぬことはない。そんな状況だからこそ、いつ雷が近づいてきてもいいように、窓を開け放ち遠雷の轟に耳を傾けているのだ。

それにしても、えらい派手に落ちてるな——。

 

するとその時、まさかのタイミングで友人から一通のメッセージが届いた。

「11年ぶりの東京湾花火大会、見たかったなぁ」

 

(・・・え? これ、遠雷ではなく花火の音だったのか??)

 

よくよく耳をすませば、それは落第の嵐ではなく花火が上がる音だった。

まぁたしかに、雷だとしたらとんでもないテンポ感で落ちまくっているわけで、そんな不自然な現象というのも実際のところ考えにくい。

そうか、これは花火だったのか——。

 

*

 

かといって花火を見に行くわけでもない、イベント事に無関心なわたしなのであった。

 

1件のコメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です