大宮といえば・・いや、全国区の知名度を誇るカピバラとして、多くの者から愛されていたピース亡き今、埼玉県こども自然動物公園から大宮公園小動物園へやってきたのは、知る者ぞ知るカピバラ界のスイカ早食い女王・ヘチマ。
彼女は、カピリンピックにおける夏の種目「スイカ早食い競争」で、4戦4勝という圧倒的な実力を見せつけている。しかも、2023年など「1分29秒」という驚異の記録を叩き出しており、現時点における金字塔の樹立者なのだ。
そんな勇者が大宮へやって来たというので、さっそく彼女を拝みに動物園へと足を運んだのだが、そこにいたのはスイカ早食い女王というより、警戒心なのかストレスなのか、隅っこで金網を甘噛みし続けるほっそりとした個体だった。
たまたま水浴び後で体毛が濡れていたせいもあるが、どことなく貧相に見えるヘチマは、展示スペースの片隅——そこはかつて、ピースとラメールそしてチェリーの3兄弟が、密談を交わす場所だった——で、こちらへ背中を向けつつ金網に歯を当て、虚無な表情で下あごを動かし続けていた。
少し離れたところには、一緒に引っ越ししてきたマーラ(タン♂、カオ♀)がくつろいでいたが、本日のヘチマは一人で過ごす時間を選んだ模様。
今年で8歳を迎えるヘチマにとって、生まれ育った場所と突然の別れを余儀なくされたことは、彼女の意思ではないし望んでいたことでもないだろう。これもすべてわれわれ人間のエゴによるものだが、それでもヘチマを見守るファンや真摯に飼育・管理に取り組む関係者の存在は確かだし、ヘチマを取り巻く者たちの想いが彼女自身へ届けば嬉しい。
そして何より、少しずつでいいので新しい環境に慣れてくれることを切に願うのである。
ちなみに、二時間ほどヘチマの様子を観察していたわたしは、来場者の多くが・・いや、ほぼ全員が「ある勘違い」をしていることに驚かされた。
「あ、カピバラの子どもだ!!」
「見て見て、スリムなカピバラがいるよ!!」
そう言いながら指さす先には、二頭のマーラ。
(・・なるほど、カピバラを見慣れていない者からすると、マーラはカピバラに見えるのか)
かくいうわたしは、マーラはむしろ「キョン」の仲間だと思っていた。
キョンは、シカ科ホエジカ属に分類されるシカの一種で、我が国では特定外来種(生態系等に被害をおよぼす恐れのある動物)として駆除対象となっている。だが、見た目は可愛らしくて中型~大型犬くらいのサイズゆえに、どことなく憎めない害獣なのだ。
しかしながら、マーラは分類学上「かなり近いカピバラの親戚」に当たる。両者とも「齧歯目(げっしもく)テンジクネズミ科」までは一緒で、属が「カピバラ属」と「マーラ属」に分かれる程度の違い。
とはいえ、あのか細い足でピョンピョン跳ねるマーラの姿を見れば、それはそれは可愛らしくて思わず微笑んでしまうのだが、まるで逆の特徴・・すなわち「短くて太くて水かきのある立派な足」を持つカピバラと同族である、というのがどうも信じられないのである。
そんなわけで、多くの来場者がマーラを見てカピバラだと勘違いする中、本物のカピバラであるヘチマは、相変わらず隅っこで金網ハムハムを続けている——端っこすぎて、誰も気づいていないじゃないか。
だがある時、一人の子どもが「あ!本物のカピバラがいる」とヘチマを発見した。すると周りの子どもたちも「ほんとだほんとだ」となり、皆の視線が一斉にヘチマへと向いた。
それを機に「じゃあ、あっちにいるのはなんだ?」と一同がざわつき始め、そのうちカピバラとマーラの説明が書かれた看板に気付いた結果、「あれはマーラで、こっちがカピバラだ」と無事に着地したのである。
おそらく、ヘチマ(カピバラ)とタンおよびカオ(マーラ)を見た子どもたちは、今後もその違いを忘れることはないだろう。こういった啓蒙活動こそが、動物園の意義であり本質的な部分なのだ。
残すところは、カピバラと「ヌートリア」の違いをしっかりと理解してもらうことか——おっと、この話は長くなるのでまた今度。
しかしながら、これだけはどうしても覚えておいてもらいたい。
カピバラは漢名を「水豚」という。対するヌートリアは「沼狸」と書く。つまり、あちらは沼のタヌキなわけで、タヌキごときと一緒にされてたまるかっ!!
ハァハァ‥










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