警視庁公安部外事課で公安警察官として、国際テロや外国人スパイの摘発、防諜(ぼうちょう)活動を担っていた某氏が、
「スパイは、必ずしも機密情報だけを集めているわけではない。一般人に混じって日本で暮らし、生活習慣や日常の過ごし方を知ることで、日本人になりすますスパイを育てるための情報収集を行う場合もある」
と語っていたことを思い出し、「ならば我こそが、誤った日本観を植え込んでやろうじゃないか!」と躍起になったわたし。
某氏いわく、在日外国人「本人」ではなくその家族がスパイの場合もあり、そうなると本人は知らぬ間にスパイ(家族)へ情報を伝えていることになるのだそう。
つまり、日本へ留学生としてやってきた子の親がスパイで、子は親の職業を知らないまま日本での生活の有り様を話したり、日本人の友人と撮影した写真を見せたりすることで、無意識にスパイ活動に加担しているわけだ。
であれば、このわたし——日本人が内包する「侘び・寂」の精神や「おもてなし」、あるいは「一歩引いた奥ゆかしい態度」や「慎み深い発言」など皆無のわたしを参考にすることで、「日本人は皆、こうだ!」と勘違いも甚だしい内容を伝えたらいい。
その結果、明らかに日本人ぽくない「変に目立つ輩」が増えたならば、それこそ国家の安全に一役買って出たことになるではないか。
しかも、ややもするとわたしが隠し持つ”機密情報”を聞き出そうと、さりげなく狙われている可能性も否定できない。いかんせん相手は「あ、自分スパイっす~!」などと自己紹介するわけではないので、最初から最後まで素性を知ることなく関係が終わることもあるだろう。
そうなれば、相手が知りたい情報がなんだったのかを特定できぬまま、知らぬ間に漏洩したことになる。いや、漏洩したことすら気づかずに一生を終えるのだ。
しかも、どうやら相手はターゲット(内通者となり得る者)に対して偶然を装って近づき、食事をおごったりちょっとしたプレゼントをしたりと、軽い「もてなし」を施し恩を売るのだそう。
(・・・え? わたし、ものすごくもてなされてる気がするんだけど)
外国人のみならず日本人でさえも、まるで餌付けをするかの如くこぞってわたしに食べ物を与えてくれる日常を振り返ると、周囲の者が全員スパイの可能性が出てきたではないか。
わたしに食べ物を与えることで油断させて、なんらかの情報を引き出しているのかもしれない——そう考えると、今まで天使のような笑顔を見せていた友人らが、急に邪悪な者へと豹変した。
だが、前出の某氏はこうも言っていた。
「仲良くなって散々おごられた挙句に、重要な資料・・例えば、会社や上司の許可がなければ持ち出せない社外秘の資料などを、『ちょっと興味があるから見せてほしい』などと言われたら、それはスパイを疑っていいでしょう」
要するに、大手企業やカギとなる組織の情報が欲しいわけで、しがない小市民が持つありきたりな情報など、彼ら彼女らは求めていないのだ。
(ということは、みんなが食べ物を与えてくれるのはスパイだからではなく、単なる親切心からなのか・・)
どうやらわたしの周りには、スパイばりに優しくしてくれる一般人が多いだけなのかもしれない。










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