白いポツ

 

——嫌な予感がする。

およそ4か月前、お呼ばれしたホームパーティーにて豪華な手料理にがっついていたところ、突如「ガリッ」という派手な破壊音とともに、真っ二つに割れた我が奥歯

「割れた」といっても、その場でポロっと歯が取れたわけではなく、歯の表面に真っすぐな線が入った感じで、まさに地面がひび割れしたかのような状態となったのだ。

そして、破折した瞬間は脳天を貫く激痛に思わず咀嚼を止めたが、とはいえ割れたのであればもうどうしようもない。気持ちを入れ替えて、ふたたび料理へと手を伸ばしたのである。

 

その翌日、近所の歯科クリニックで検査および治療をしてもらい、辛うじて抜歯を免れた我が奥歯は、小康状態というか薄氷を踏む思いで破滅の一歩手前を維持しているというか、今日に至るまでなんとかわたしの一部として留まってくれている。

だが、そんな我が奥歯に異変が起きた。

歯自体の痛みや違和感はない(厳密には、歯根破折した時点で違和感があるので、それ以外の違和感ではない、という意味)のだが、当該奥歯が生えている歯茎に白いニキビのような出来物が現れたのだ。

 

最初は、「偶然にも歯根破折した歯の上にできるなんて、縁起が悪いなぁ」などと呑気に構えていたのだが、その1分後に嫌な予感に襲われた——これだけ歯がたくさんあるというのに、こんな偶然があるのだろうか。

そう、どう考えてもこれは偶然ではない。歯根破折した歯の根元になんらかの異常が起きているからこそ、この白いポツが出来たのだ。そして、ニキビなど皮膚にできる出来物の中身は「膿」である。要するに、ひび割れた歯の根元で細菌が繁殖し、溜まった膿がどこかへ排出されるべく、皮膚を突き破ってできたのがこの白いポツなのでは——。

 

このように予想したわたしは、すぐさま歯科クリニックへ向かおうとした。だが、時刻は夜中のため、翌日まで待たなければならない。

(あぁ、これはいよいよ「ご臨終」へのカウントダウンが現実となった証拠ではなかろうか。ついに我が奥歯はこの世を去って、禍々しいチタンの人工歯を埋め込む時が来たというのか・・)

 

眠れぬ夜を過ごしたわたしだが、気づくと翌朝には白いポツが消えていた——きっと、膿が外へ流れ出たのだ。とはいえ、これは治ったわけではなく膿が消えただけのこと。歯の根幹では細菌が繁殖しており、粛々と骨を溶かし膿を発生させていることに変わりはない。

こうして、歯科クリニックを訪れたわたしは、想像どおりの説明を主治医から聞かされたのである。やはり、思ったとおり最悪な状態というわけか・・。

 

「(奥歯が)瀕死状態の感じがするって、ずっと言ってましたもんね」

感心したように主治医がそう呟いた。そうなのだ、わたしはかなり前から奥歯の内部で歯の破滅が進行していることを感じていた。だがそれは、レントゲンやCT画像では映らない、細胞レベルの不穏な感覚だった。

そして現に、我が奥歯が細菌による侵攻を受け続けた結果、白いポツ(サイナストラクト)を発生させる形でSOSサインを出してきた、というわけだ。

 

いよいよグリーンマイルに乗せられたわたしだが、余命いくばくもない奥歯の生涯を、ただただ見守ることしかできない現実に呆然とした。

せめてもの配慮として「なるべく右側では噛まないこと」を心がけるなど、奥歯の最期を穏やかに迎えられるよう努力はしているが、一度失ったら二度と手に入らない天然歯のことを思うと、奴らの命のもろさを嘆くしかない。

あぁ、わたしの口に来月も奥歯は存在するのだろうか——。

 

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