3か月前、ホームパーティーに招かれたわたしは敏腕シェフがつくる見事な手料理に舌鼓を打っていた。その最中、ゴキッという鈍い破壊音とともに右の奥歯が真っ二つに割れた。
歯根破折の瞬間に何か硬いものを噛んだわけではないので、これまで奥歯にかけ続けてきた衝撃や負担の蓄積が、ついに限界を迎えた感じなのだろう。なぜそれが分かるのかというと、過去にも二度ほど同様の衝撃と激痛を体験したことがあるからだ。
ちなみにわたしは、通常では考えられないほどの筋肉量と筋肉の生成スピードを持っている。おそらく腸内細菌がヒトのものとは違う——アミノ酸を合成する力が強く、タンパク質以外の栄養素からもアミノ酸を作り出してしまうことで、何もせずとも筋骨隆々なフォルムを維持できるのだと推測する。
そんなわたしは「噛む力」も人一倍強いため、過去には咬筋へボトックス注射を打つなど、筋肉を衰えさせるための治療まで行っていた。にもかかわらず、「ボトックスが効かない」というまさかの結果に、底なしの筋力は荒ぶる神のごとく猛威を振るったのである。
——話を戻そう。歯根破折した奥歯のレントゲンとCTを撮影したところ、ど真ん中から真っ二つヒビが入っているものの、現段階ではグラつきが確認できないため、とりあえずの延命措置として「根幹(歯の神経)治療をした後に、セメントを流し込んで固めておく」という温存療法を選択した。
抜歯するのは簡単だが、もう二度と生えてこない歯の貴重さを理解しているわたしは、神にすがる思いで天然歯を残す治療にすべてを賭けたのだ。
ちなみに、その際に撮影した画像から他の歯でもトラブルが起きていることが発覚——左上2番(前歯)の中間部に、妙な丸い穴ができている。さらに、上顎の骨が溶けているではないか!!
これは「内部吸収」と呼ばれ、歯への衝撃や虫歯の進行が原因で慢性的な炎症が起き、歯の内部にある象牙質を溶かす破歯細胞が異常に活性化した結果、歯の内側に空洞ができる現象。そして、空洞が大きくなると歯質が薄くなるため、最悪の場合は歯が折れてしまい抜歯、というまったくもって迷惑な現象が起きていたのである。
こちらもすぐさま根管治療と洗浄を開始したが、なかなか思うようにスッキリと膿が止まらない。それでも根気強く洗浄と消毒を続けたのだが、「これ以上繰り返すと歯への負担も大きいので、次回ダメならばとりあえず終わりにしましょう」と、なんとも無慈悲な背水の陣を敷かれたわたし。
一般的な虫歯治療のように、単純に抗生剤が届くわけではない内部吸収の恐ろしさに恐れ戦きながら、それでも必死に虫歯菌の死滅を祈る一週間だったことを思い出す。そして翌週の診察日を迎え、抗生剤が空洞内まで到達したことで虫歯菌が大人しくなったことを知り、心の底から安堵し胸をなでおろしたのである。
とはいえ、小康状態を保っているものの破歯細胞がいつ活性化するかも分からないため、瀕死状態の奥歯に加えて前歯も予断を許さない状況となった。
そして今、わたしは「第三の危機」に直面している。
初診の際に撮影した画像を確認したところ、右下7番(第二大臼歯)の高さが他と比べて上がっていることが発覚。その理由は、右上7番を歯根破折により抜歯していることで、ぶつかるものがなくなった右下7番がのびのびと上がってしまったからだ。
しかしながら、「のびのびと過ごしているならば、いいではないか」とはならないのが歯の恐ろしいところ。のびのびと上昇を続ける奥歯は、放っておけばいずれそのまま抜け落ちて・・いや、抜け上がってしまい、最終的には抜歯ということになる。
歯は本来、上下で咬合することで位置が安定するもの。しかし、対合歯(今回ならば右上7番)が無い状態では歯を抑え込む力が消失するため、右下7番が徐々に挺出(ていしゅつ)すなわち「歯が伸びてくる」という状態に。そして、対合歯を失った奥歯・・言い換えれば「正常ではない歯」は、清掃状態が良くなかったり、歯周病のリスクが上昇したりすることで、最終的には抜歯という手段に至るケースが多いのだそう。
となれば、上の歯に続いて下の奥歯も失うことになるわけで、虫歯でもなんでもない健康な歯をみすみすと手放すなんて・・・絶対に嫌だ!!!
これを防ぐには、矯正器具で奥歯に圧力をかけて高さを押し下げた後に、右上7番にインプラントで人工的な歯を作り、対合歯を誕生させることで右下7番が伸びるのを阻止するしかない。そして言わずもがな、矯正治療は長期間かつ莫大な費用がかかるわけで、そこへさらにインプラントとなれば、治療を終えるまで正気を保っていられるか分からない。
なおかつ、延命措置を施している右上5番に加えて、いつ再発してもおかしくない左上2番のいずれかが・・いや、両方が抜歯となった場合、合計3か所へインプラントの埋入が必要となる——いったいいくらかかるんだ。
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舌で触れただけでも分かる、右下7番の突出っぷり。この歯がいつまでわたしの体内に留まってくれるのか・・あぁ、考えただけで暗黒な未来しか想像できないのである。











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