燃え続ける昭和マインド

 

仕事の相談で、なかなかのレアケースに直面したわたしは、あまねく平等な制度というものの難しさ・・というか、行政の横の連携の無意味さに辟易とした。

 

これは、なんというか恐るべき偏見であり固定観念でもあるが、「夫婦間において、加入する健康保険制度が社保と国保それぞれ別であるならば、健康保険(社会保険)に加入しているほうが収入が高い」という謎の思い込みは、いい加減に捨て去ってもらいたい。

たとえば、個人事業主かつ高収入の夫と、週30時間のアルバイトをしている妻という組み合わせの場合、夫は国民健康保険に加入し、妻は健康保険の被保険者となる。そして、この夫婦に子どもが生まれた場合、子の生計維持者は収入の高い夫すなわち父親となるため、健康保険の被扶養者すなわち母親の扶養家族になることはできない。

もしも条件が逆であれば——つまり、高収入の夫が健康保険で、アルバイトの妻が国保(健保のままでもOK)であれば、父親の被扶養者となるべく勤務先経由で被扶養者移動届の申請をすればいいだけだが、先述のとおり生計維持者たる父が国保の場合、子は父の被扶養者(国保の場合、この表現は相応しくないが)となる。

 

そして、このような収入および保険加入状況の夫婦に子が生まれたため、父親が役所へ届出をするべく向かったところ、「健康保険に関しては、母親が社保なのでそちらで手続きをしてください」と言われたのだそう。ちなみに、被扶養者認定の要件などを知らない一般人ならば「あぁ、そういうものなのか」とすんなり引き下がってしまう場面。

無論、この時点で「なぜそうなるのか」について、役所側から説明がなされた可能性は十分にあり得る。しかしながら、小難しい保険制度の話など興味もないし記憶にも残らないため、最終的な結論のみを伝えられたわたしは「そんなはずはない」となるわけだ。

 

そして、社労士であるわたしが担当部署へ確認したところ、「先生のご認識どおりです、こちらの対応が誤り(または説明不足)でした」と言われたので、その旨を当該夫婦に伝え、改めて子の国保加入手続きを行ったところ、まさかの「また同じことを言われて、手続きができませんでした」とのメッセージが届いたのだ。

手続きができなかった理由を聞いてみると、

「母親の被扶養者になれない証明、すなわち『不認定通知書』というものを出さない限り、子は国保へは加入できないと言われました」

とのこと。そんな馬鹿な話があるか——。

 

そもそも、両親のいずれか収入が高い方が生計維持者となるわけで、それが明らかに父親であるにもかかわらず、なぜあえて収入の低い母親の「不認定に関する通知書」が必要となるのか意味が分からない。

この件について年金事務所へ確認をしても「そもそも、申請時点で配偶者の収入の方が高いとなれば、審査するまでもなく返戻となります」とのこと——そりゃそうだ。しかも、わざわざこの返戻文書を手に入れるべく電子申請をするなど、時間の無駄だし手間がかかるし「無意味な行為」以外の何物でもない。その間、子は無保険状態となるわけで、なぜそのような理不尽な状況に追いやられなければならないのか理解に苦しむ。

 

行政側としては「被保険者の利益を保護するためにも、まずは社会保険の被扶養者となる選択を勧めるのがセオリー」なのかもしれないが、税情報が確認できるのだから生計維持者が父と母のどちらになるかなど、一瞬で把握できるはず。それなのになぜ——?

そこで、改めて担当部署へ架電したところ、なるほど「まさかの事実」が発覚したのだ。それは、当該夫婦の転入日が昨年末であるため、昨年度の税情報が確認できないことから「生計維持者がどちらになるのか、役所側には分からない」という事実だった。

(だから、母親の被扶養者となれない確認すなわち不認定通知が必要と言われたのか)

 

この時点ですべての合点が行った。おそらく、役所側では住民情報を確認した上で先のような案内をしたのだろう。だが、税制度や社会保険制度など素人同然の一般住民にとっては、実務における必要書類や手続きの流れなど知る由もない。そのため、記憶していた必要書類のみをわたしに伝えてくれた、というわけだ。

しかしながら、個人的な疑問が二つある。一つは「不認定通知を取得する手間や時間を考えると、昨年度の夫婦の収入が確認できる書類を持参させるほうが早いし確実。なのになぜ、申告書類の控を持ってきてほしいという案内をしなかったのか」ということ。そしてもう一つは「そもそもマイナンバーで税情報を紐づけしたのであれば、転入者の前年度の税情報も閲覧できるようにすればいいじゃないか」ということだ。

 

このあたりが「お役所仕事」と揶揄される原因だろうが、手続きの本質が何であるかを理解すれば、もっと簡単で合理的な進め方ができるはずなのに、決められたマニュアルどおりの回答や案内しかできないあたり、相変わらず行政は時代に取り残されている。

とにもかくにも事実が出揃ったため、当該夫婦へ種明かしをした。すると「あー、そういうことだったんですか!」と、驚きつつも納得を示してくれたのである——要するに、窓口の段階でこのような説明をしていれば、ここまで拗れることはなかったんじゃないか。

 

 

「お役所仕事」というやつは、いつまでたっても昭和のマインドで燃え続けるのである。