要するに、春なんだ。

 

あぁ、要するに完全に春なんだ——と、ひょんなことがきっかけでしみじみと実感する場面に遭遇した。

 

 

かつてと比べると日本の四季はメリハリをなくし、「長くて暑い夏」と「そこそこ寒い冬」という二つの季節に付随するかのごとく、「短すぎる春」と「ほぼ存在しない秋」が慌ただしく現れては去っていくのが、現代の春夏秋冬。

とはいえ、無神経で鈍感なわれわれが「四季の変遷」という微妙な変化を感じることができずとも、自然や野生の植物は無言でそれを察知し伝えてくれる。そう、寒空の下で咲き誇る「桜」を筆頭に、草や花、樹木や山並みといった自然を生きるものたちは、暦(こよみ)や気温のような定量的な情報ではなく、水面下で刻々と進む季節の移り変わりを、その身をもって教えてくれるのだ。

 

ちなみに、植物に限らず野生動物も同じような能力を持っている。それこそ、イノシシや猿が持つ並外れた嗅覚なのだろうか、「明日、収穫しよう」と思っていたサツマイモやトウモロコシ、桃や柿といった”まさに収穫期を迎えた農作物”を、なぜかヒトより一日早く掘り起こしたりもぎ取ったりするから恐ろしい。

これがまだ「視認できる果実」の類ならば理解できるが、サツマイモやジャガイモなど土の中に埋まっているにもかかわらず、ドンピシャのタイミングで発掘するというから不思議。

しかも、リアルに「明日、収穫しよう」と計画を立てていた矢先、朝起きて畑へ赴くと大切に育て上げた「お宝」が奪われた後だった——という誇張なき実話を、農業を営むプロや趣味で家庭菜園を楽しむ者らが、悲しみと悔しさが入り混じった表情で話してくれたのを思い出す。

 

事前に畑の一部を掘り起こすなどして、農作物の状態を確認してからの犯行ならばまだ分かるが、そういった様子は確認できないまま”事件当日”を迎えるわけで、それこそ野生の世界という過酷な現実を生き抜くために必要な能力なのかもしれない。

だからこそ、「収穫した個体を割ってみなければ、中身の状態が分からない」なんていう危機感の薄いお気楽な野郎は、当たり前にすぐさま野垂れ死ぬ運命なのだ。

 

そんなわけで、温室育ちの生ぬるい環境を与えられたわれわれヒトには分からない、刻々と変化を続ける季節の移り変わりを、まさかの植物がそっと教えてくれる・・という、奇跡のような見事な豹変っぷりに遭遇したわたし。

それはなんとも奇妙な光景であり、キツネにつままれたかのような不思議に包まれたのである。

 

 

(・・なんだこの黄色いブーケは)

 

未使用のガスコンロの上に、見たことのない黄色い花がびっしりと束ねられたブーケが置かれてある。ここはわたしの自宅であり、誰かが忍び込んで花束を置いて行った・・なんて可能性は万が一にもあり得ない。しかも、ラッピングどころかリボンも結ばず無造作に放置するとは、ギフトなのか嫌がらせなのか分からない。

しかも、その奥にはこれまた満開の「菜の花」が置かれているではないか——え、これって二日前にスーパーで買った「緑色の植物である、菜の花」が咲いたってこと?!

 

そういえば先日、店頭で売られていた菜の花を購入し、レンジで加熱して食べたことを思い出す。しかしながら、我が家には調味料がないので味付けをせずにそのまま葉や茎を齧った結果、青臭い野草の味しかしない(すなわち、ものすごく美味というわけではなかった)ため、とりあえずそこら辺に放置したのだ。

あの菜の花が、まさかの開花宣言をするとは——。

 

(となると、手前にある黄色いブーケはいったい・・・こ、これはまさか!?)

 

日常的なプレゼントとして最適なサイズであろう黄色いブーケの正体は、なんとブロッコリーだった。

こちらも二日前、立派なブロッコリーを一株買ったことを思い出す。そして、数房をもぎ取り加熱・摂取した後に、ポリ袋へ突っ込んだままガスコンロの上に放置したのだ。

あのブロッコリーが・・購入時は深緑色の立派なブロッコリーだったのが、なぜかイチョウのごとく真っ黄色に色づきちょっと広がっているではないか!!!

 

そもそも料理をしたことのないわたしは、野菜や果物をストックするという考えを持ち合わせていない。買ってきた食糧はその日のうちに食べ切るか、業務用冷凍庫で保存するの二択のため、大きな株のブロッコリーや10束もの菜の花を購入し、加熱処理を施さずに放置したら花が咲く・・などというまさかの事実を知らなかったのだ。

(いや待てよ。ならば、なぜ今まではブロッコリーが咲かなかったんだ?)

——そうだ、ダイエットを始めた1月の終わり頃からブロッコリーを株で買うようになったわけで、それなのにこの3カ月間は一度も開花しなかったじゃないか。なのになぜ、今ここへきていきなり変化を見せたんだ。

 

(あぁ、これこそが『春の訪れ』というやつか・・)

 

胸が温かくなるようなホッコリとした感情がわたしの中で広がる。要するにこのブロッコリーは、寒い冬を終えてようやく顔を現した「春」により、見事に開花を果たしたのである。

 

 

ブロッコリーは、スーパーでは無造作に台の上へ並べられているが、自宅では冷蔵庫で保存するものなのだと、この年になって初めて知るのであった。