愛犬のために超音波ネブライザーと対峙する飼い主

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鼻腺癌が発覚してから5カ月半が経過した、よぼよぼの愛犬・乙(おつ)のケアに、新たなマシンを導入することにした。

当初は、症状改善に対する確実性がない上に、乙が嫌がり機械を使うことなく終了・・となる可能性もあるため、購入に難色を示していたわたし。それでも、試さずして後悔するくらいならば、すべて挑戦した上で納得したいということで、マシンの購入に踏み切ったのだ。

 

ちなみに「マシン」とはなんぞや?——それは、超音波式ネブライザーである。

 

もう睡眠不足どころの話ではない無睡眠が続く乙は、脳が朦朧としており認知能力がかなり低下している様子。見ているだけでも辛いが、そんな乙に少しでも安らぎを与えられれば・・という想いから、わたしが個人的に信頼を寄せる獣医師に相談したところ、"ボスミン"の吸入を勧められたのだ。

しかしこのきっかけをくれたのは、愛知県でカピバラの飼育をしている友人だった。「鼻の血管収縮剤なども試してみたらどうかな?」という言葉を受けて、獣医師の友人に相談をする運びとなったからだ。

 

・・話は逸れるが、日本の一般家庭でカピバラを飼育するのは、並大抵の覚悟では無理である。南米生まれのカピバラは、愛玩動物とは違い野生が原則の生き物。そのため、人間の思い通りにならないことだらけなのだ。

さらに、成獣(大人の個体)ともなれば体重は50キロを超え、時速50キロでダッシュできるほどの脚力を持つわけで、当然ながら食事(青果物や干し草など)の量も半端ではない。

 

おまけに排泄を水中で行うことから、トロ舟(プラスチック製の大きな箱)に水を張って常設しておかなければならない上に、本来は水辺で暮らすカピバラにとって、池やプールといった水場も重要な要素であり、小さな銭湯・・というか、大きなジャグジーサイズのプールも必須となる。

また、自宅の柵や壁を齧ったり壊したりすることもあるので、食費や水道代、冬場の暖房代などの固定的な費用だけでなく、臨時の出費も相当な金額となるはず。

 

このような事情からも、「かわいいから」「珍しいから」などという甘い考えで飼育ができるほど、世界最大の齧歯類であるカピバラは簡単な動物ではないのだ。

 

——話を戻そう。飼育が困難なカピバラを3頭も育て上げた友人は、教科書には載っていない"現実"を知っている。そのため、乙の状態についてもなにかと気にかけてくれて、親身にアドバイスをくれるのであった。

そして「どうせなら最高のケアを施したい」と考えたわたしは、獣医師の助言通りにボスミン(血管を収縮することで止血作用が認められ、鼻粘膜の充血や腫れをおさえる効果があるとされる、喘息の治療薬)を吸入させるべく、ネットで"ネブライザー(吸入器・噴霧器)"を検索することにした。

 

(いろいろな種類があるんだな・・)

幼児や児童が治療で使うこともあるからか、携帯可能なサイズのものから病院で使うような立派なものまで、さまざまなネブライザーが販売されている。

乙への吸入は母に依頼することとなるため、できればハンディーな形状がいいだろう・・ということで、評価も見た目も金額もそこそこの「メッシュ式ネブライザー」に目を付けた。

 

ネブライザーには種類がいくつかあり、メッシュ式、コンプレッサー式、超音波式というラインナップ。そしてハンディータイプはメッシュ色で、「出先に携帯できるので安心」「充電できるから使いやすい」「コンセントでも電池でも使えて便利」などの好意的な意見が並んでいる。

(これなら大丈夫だろう)

念のため、購入を検討しているネブライザーについて獣医師の友人に共有したところ、あまりいい返事ではなかった。そこで、また別の商品のリンクを送るなど、お手頃価格のハンディータイプのネブライザーをいくつか示してみたが、結果は変わらず。挙句の果てには、

「コンフォートオアシスが費用的に厳しいのならば、(それらの安物を買うしか)仕方ないですね」

という決定打をもらったのだ。

 

(・・たしかに、わたしは何をケチっているのだ。無論、価格だけの話ではなく、母が扱いやすいデバイスのほうがいいという気持ちもあるが、何よりも効果が最大でなければ意味がないではないか)

 

目が覚めたわたしは、すぐさまコンフォートオアシスをクリックした。——そうだ、今やるべきことは乙にとって最高の治療しかないんだ!

 

 

こうして、どこをどう見ても医療機器というフォルムのデバイスが実家に到着した。だが、全盲の父に説明書が読めるはずもなく、メカ音痴の母が組み立てられるはずもなく、当たり前のごとくわたしがやるしかないのである。

そして今、親切すぎて逆に不親切なレベルの取説を読みながら、ネブライザーの使い方や動作確認をするわたしがいる。

 

時刻は午前4時を過ぎた。果たしてこの立派なマシンは、ちゃんと作動するのだろうか——。

 

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