たこ焼き+ハイボール+サラリーマン=愚痴大会

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久しぶりにたこ焼きを食べた。

小腹が空いた22時過ぎの帰り道、銀だこハイボール酒場に立っち寄ったのだが、スタンディングバー形式の狭い店内は、仕事帰りのサラリーマンでごった返していた。

一つのテーブルに3人乃至4人ほどの割合で、ハイボール片手にたこ焼きを頬張る男たち。アルコールにより紅潮した顔を突き合わせながら、各々が積極的に思い思いの言葉を発している。

 

「サラリーマンが集まれば、会社の愚痴大会になるわなぁ・・」

 

目の前にいる友人に話しかける。

 

「そうだね。だいたいが前半は会社の愚痴で、後半が個人の趣味とかの話になる流れだよね」

 

わたしの会社勤めはかなり昔の話。さらに同僚と食事に行った記憶もほとんどないわけで、愚痴を言うほど馴染んでもいなかったのだろう。

 

しかしその時、ふと、顧問先での事件を思い出した。

 

 

「××の妻です。夫のことで相談があるのですが」

 

ある日突然、一通のメッセージが届いた。

いまのご時世、SNSであらゆる人と繋がることができる。そのため、夫の勤務先の顧問社労士であるわたしのことも、簡単に調べがついてしまうのだ。

 

とはいえ、この奥さんとは以前から面識もあるので、「初めまして」というわけではない。顧問先は小規模でアットホームな会社ゆえに、労働者の家族との距離も近いのだ。

 

相談の内容は、夫の労働時間が長すぎることについてだった。毎晩、日付が変わってからの帰宅のため、休日は疲れ果てて寝ているらしい。

さらに、これほどまでに長時間労働をしているにもかかわらず、残業代ももらっていないとのこと。だがカネのこと以上に、夫の体調を心配している様子。

 

とはいえ会社には良くしてもらっているので、社長に相談することは憚られることから、労働基準監督署に相談する前にわたしに相談した、という経緯らしい。

 

ところが社長からは、そのような長時間労働または深夜労働について聞いたことはない。だが妻の話が嘘だとも思えない。

そこでわたしは、それとなく社長に××の就労実態について尋ねてみた。すると、驚きの事実が発覚したのである。

 

「定時に上がってますよ。でもその後、友達のバーで何時間か過ごしてから、帰宅してるんですよ」

 

なるほど――。

仕事後、妻に内緒で友人の店で羽を伸ばしていたのだ。だがそんなことを正直に告白すれば、妻は激怒し直帰を言い渡すだろう。

それを避けるべく、毎日残業で遅くまで仕事をしているテイで、帰宅が遅い理由としていたのだ。

 

××自身の、貴重で大切な一人の時間を奪うわけにもいかない。かといって妻の心配、いや、誤解を放置しておくわけにもいかない。

仮にこれで妻が先走り、労基署へ相談にでも行かれては困る。というより、事実が発覚した際の夫婦関係が心配である。

 

そんなことを考えているうちに、事件が勃発した。

 

「奥さんがママ友に相談したら、そのママ友が弁護士や労働基準監督署に相談に行ったらしいですよ」

 

ついに堪忍袋の緒が切れた妻は、仲のいいママ友に長時間労働と未払い残業について相談をしたのだそう。

無論、夫は妻に嘘をついているわけで、長時間労働もなければ未払い残業代があるわけでもない。

だが妻の話を真に受けたママ友は、「そんなブラック企業、訴えたほうがいいよ!」と息巻いて、労基署と弁護士事務所へ相談に行ったのだ。

 

その事実を、夫婦喧嘩の際に××が知ったのである。

 

社長に対して何度も謝罪をする××。「自分のせいで会社に何かあったら、本当に申し訳ない」といって、土下座までした。

 

その後、大事には至らなかったものの、夫婦仲はめっきり冷え込んでしまった模様。

まぁこればかりはどうしようもないが、もう少し家庭内での対話やお互いへの配慮があれば、結果は違ったのかもしれない。

 

 

この場にいる何人が、帰宅して妻の怒りを買うのだろうか。

それを分かっていながらも、愚痴をこぼさずにはいられないのかもしれない。

 

夫婦とはいえ、個体で見れば他人同士。そして人生は、限りある上に一度きりである。

どうか、各々を尊重したライフスタイルであることを願いたい。

 

サムネイル:銀だこハイボール酒場

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