ランゲルハンス島の戦い

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今日はいよいよ決戦の日。前日から体調を整え、最強の傭兵として挑むべく朝を迎えた。しかし敵は戦場ではなく、その手前で待ち伏せていたのだ。

 

 

本日のバトルは体を張っての、いや、胃袋を張っての戦いというべきか。場所はアマンド六本木店、内容は「パルフェ食べ放題」という過酷な任務に就くのだ。

六本木のアマンドといえば、かつては「待ち合わせの名所」としてその名を轟かせていた。1990年代から2000年前半にかけて、六本木で待ち合わせをするならばアマンド前が定番だった。ミッドタウンや六本木ヒルズといった大御所を差し置いて、六本木の顔として君臨していたわけだ。

 

アマンドの歴史は昭和21年までさかのぼる。戦後の日本で、洋菓子と喫茶のパイオニアとして時代を担ってきたアマンドは、令和となった今でもそのブランドにあぐらをかくことなく、挑戦を続けている。

そしてその一つとして、福岡県産の旬なフルーツを使用したパフェが期間限定で食べ放題となる、「アマンド六本木店喫茶パルフェ食べ放題」が実現した。

 

アマンドは年間を通じて地域振興に向けた取り組みを行っている。そして今回、同社史上初となるJA全農ふくれんと共同で、福岡県産のフルーツをふんだんに使用したパフェの食べ放題という企画を打ち出した。

現在が旬である福岡県産の巨峰と白桃のパルフェ、昔ながらのメロンパルフェ、さらにパフェの王道ともいえるチョコバナナのパルフェなど、合計5種類のパフェが食べ放題。制限時間は90分、一回の注文で2品までという条件で、一人2,500円(税込み)という破格の安さ。

この情報を聞きつけた全国の甘党らが、朝から店頭に並んで整理券を確保し、夕方からの戦に備えるのであった。無論、我が軍からも斥候を派遣し、無事に整理券を手にすることができた。

 

そしてなにを隠そうこの私、六本木のランドマークともいえるアマンドに入店するのは今回が初めて。場所こそ知ってはいたが、間違いなく一杯のコーヒーが安価ではない雰囲気のその店に、どうしても足を踏み入れることができなかったのだ。

しかし今回の戦を機に、いよいよ六本木アマンドのドアをくぐることとなった。どピンクでフリフリのフェミニン臭満載の喫茶店という、やや気おくれしそうな環境ではあるが、派兵されるからには正々堂々と任務を遂行するしかない。

 

こうして私は、朝から闘争心むき出しで戦いの狼煙が上がるのを待った。

 

 

「バカなことはやめなさい」

 

外科医の友人が真剣な表情で振り向く。本日の戦いについて口を滑らせたところ、彼の怒りを買ったようだ。普段は温厚で好奇心旺盛な友人だからこそ、「それは面白い戦いだ」と、一緒になって笑ってくれるものだと思ったのだが、どうやら当てが外れたらしい。

「人間はね、一生のうちに分泌できるインスリンの量が決まっているんだよ」

その話は聞いたことがある。膵臓にあるランゲルハンス島から分泌されるインスリンは、血糖値を調整する役割を果たす。そしてその量が決まっているとすると、血糖値が上がる食事を続けることで、インスリン注射が手放せなくなる生活を余儀なくされる。

「そんなところでインスリンの無駄遣いをするのはやめなさい」

ピシャリと言い切られた私は、もはや言葉が出なかった。日頃から不摂生を繰り返す私の食生活は、高カロリー高GI値の食事で成り立っている。ただでさえ薄々、このままではいずれ糖尿病になるのではないかと不安を感じているのに、医者からの厳しい一言には耳が痛い。

 

(だが先生よ、分かってくれ。これは趣味や道楽ではない、戦争なのだ!我が身を投じてまで、戦わねばならぬ時があるのだ。分かってくれ、先生よ…。)

 

 

外科医の友人の呪縛から逃れることができない私は、アマンドに到着した時点ですでに戦士喪失していた。もはや腑抜けである。戦場においてまったく使い物にならない、ただの役立たずである。

 

5種類のパルフェを制覇できなかった私は、傭兵という職を辞することとなった。

 

画像引用元:アマンドホームページ

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