ティータイム

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土曜の昼下がり、宅配便の兄ちゃんがやってきた。

「お届け物でーす」

送り主は知人。ティファニーブルーの包装紙で、なにやら高貴な雰囲気が漂う。とはいえ重量は軽く、小包を振るとカタカタと軽い音がする。

部屋に戻るとさっそく、包み紙を破り中身を確認した。

――アフタヌーンティーセット

 

断然コーヒー派のわたしにとって、ティーとは驚きのギフト。そもそもティーもしくは紅茶という響きは、どこか澄ました貴族を想起させる。

野生で野蛮、本能のおもむくままに生きてきたわたしにとって、優雅とか裕福などという単語は対極的であり、忌み嫌うべき存在。いわば紅茶は敵なのである。

 

そもそも、今にも取れそうな取っ手に華やかな模様が描かれた薄っぺらいティーカップに、華奢で凹凸のある魔人など出てきそうにないティーポット、贅沢なシルバーのスプーンで角砂糖を混ぜて小指を立てながらティーを飲む姿など、想像しただけで腹が立つ。

分厚いマグカップに並々と注がれた、黒光りするドリップコーヒーをすすりながら仕事をする姿こそ、人間のあるべき姿でありちょっとした贅沢でもある。ブルーカラーだろうがホワイトからーだろうが関係ない。熱くて苦いブラックコーヒー片手に、くだらない仕事に一息つく瞬間こそが、至福のひと時なのだから。

 

ちなみに紅茶の歴史を辿ると、そのルーツは中国にある。古くは「不老長寿の薬」として、高貴な人々の間で重宝がられていたらしい。

その後「万病に効く東洋の秘薬」として、ヨーロッパに伝わったのは17世紀のこと。さらに、チャールズ二世のもとへ嫁いだ王女・キャサリンがポルトガル出身であったため、王室を訪れる人々に紅茶をふるまい「喫茶の習慣」をもたらしたことで、紅茶はイギリスの貴族社会へも広がりをみせた。

そんなイギリスは19世紀に入ってから、当時植民地であったインドやスリランカ(セイロン)で茶葉の栽培に成功すると、有史時代以前から茶を飲む習慣のあった中国を凌駕する勢いで、世界的にも有名な紅茶大国となったのだ(参考:日本紅茶協会「紅茶の歴史」)。

 

こうして紅茶は、イギリス貴族が優雅にたしなむ洒落た飲み物として、ブランド化されたのである。

 

さらに調べを進めると、なんと紅茶は緑茶やウーロン茶と同じ樹木からできていた。そして摘み取った葉を乾燥・発酵させる過程で、茶の種類が分かれるのだそう。

発酵が浅ければ緑茶、もう少し進むとウーロン茶、完全発酵すると紅茶になるとのこと(参考:サントリーお客様センター Q&A)。

 

(じゃあ、紅茶だけが「ティータイム」とかほざいて、ツンと澄ましてるのもマヌケな話だな)

 

おっと、ティータイムで思い出す出来事がある。過去にインドを訪れた際、なんとも奇妙なスポーツのチャンネルを発見した。その競技とは、クリケットだった。

羽子板とノコギリを足して2で割ったような形の木製バットで、専用のボールを打つ「クリケット」は、野球に似た競技。日本ではなじみがないクリケットだが、競技人口はサッカーに次ぐ世界第二位で、プロアマ合わせて3億人もいるらしい。

だが初めてテレビで観た瞬間、選手全員が真っ白な衣装で競技に取り組む姿は、宗教じみた違和感しかなかったわけだが。

 

ルールも知らないクリケットをしばらく見ていると、急に「ティータイム」に入った。選手たちが各々の休憩場所で、紅茶を飲みながらサンドイッチやケーキをほおばり始めたではないか!

 

あまりに衝撃的な光景だったため、即座にクリケットという競技について調べた。するとたしかに「ティータイム」が存在する模様。

そもそも競技の発祥はイギリスで、羊飼いたちが遊びで始めたことがきっかけらしい。その後、イギリスが世界各地へ領土拡大するとともに、インドへもクリケットが上陸したのだそう。

その結果、紅茶文化であるイギリスの慣習も引き継がれ、ティータイムが存在する競技として確立された様子。もちろん競技時間が長いからこそのブレイクタイムであり、最長5日間も試合が続くらしい。

 

(そりゃ、ティーでも飲まなきゃやってられないよな)

 

というわけで、ティータイムも見ものの人気スポーツがあることを、この時初めて知ったのであった。

 

 

そうこうするうちに、アフタヌーンティーセットに同梱されていたリーフビスケットが姿を消した。続いてシガーロールクッキーも底をついた。

結局、紅茶のティーバッグのみが残ってしまったわけだ。

 

(お菓子だけでもよかったな・・・)

 

いつか貴族の気分になりたい時がきたら、この紅茶を飲んでみようと思う。

 

サムネイル by 希鳳

 

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