基本的に飯へ行くときは自分一人か、誰かと二人と決めている。飯のパターンとしては、腹が減ってるから急いで何かを胃袋へ流し込みたいときと、誰かの話を聞くために飯の場を使うときとの2パターンに分かれる。つまり三人以上で行くときは、自分の中では「オマケ」として存在している。
だが複数人で飯へ行くと「良いこと」もある。たとえば無料でライス大盛りが選べる場合、全員が大盛りにすれば、そのおこぼれがわたしに回ってくる可能性があるからだ。
米好きのわたしは、恥ずかしげもなく他人の米を奪って食べる。だが当人の米の量は本来よりも多いわけで誰も損はしていない。よって、最高の方程式といえる。
そして今日、久しぶりに三人で飯を食った。入店したのは魚介類専門の居酒屋。時間的にもランチセットが注文できるとあり、これは米の大盛りも可能ではないかと胸を躍らせる。
メニューを見ながら友人の一人が、
「ライスなしってできるのかなぁ」
と独り言のようにつぶやいた。なにを言ってるんだ?むしろライスを食べるためにおかずを注文するんだろう!わたしは思わず口をはさむ。
「なんで?アタシが食べるからライスも頼んで!」
するともう一人の友人が、
「私もライス全部はいらないかなって思ってるんだけど」
おまえらは何のために定食を注文するんだ?米のためだろう!!
「残ったら全部アタシが食べるから!」
そう言って、二人とも強制的にライスを頼ませることに成功した。
ところがここで、後に起こる悲劇の発端となる事件が勃発。注文の際に店員が、わたしに向かってライスの有無を尋ねてきたのだ。理由は、わたしがいくつかの料理を注文したため、さらにライスも食べるのか?という趣旨。米がメインのわたしにとっては当然ながら「要ります!」と元気に答えたわけだが。
続いて友人が注文を伝える際に、とんでもないワードを口にした。
「ご飯、少なめにできますか?」
なにを言ってるんだ!?気でも違ったのか??わたしは思わず注文を遮る。
「アタシが食べるから、少なくしなくていいよ!」
すると友人が申し訳なさそうに、
「ちがうの。ご飯の量が元から多いのよ」
と教えてくれた。どうやらここのライスは元から増量されているらしい。茶碗というよりどんぶりに、てんこ盛りの米が出てくるのだそう。とはいえ、それでも食べきる自信はあるわけで、なにも気を使って小盛りにする必要などないのだが。
そしてもう一人の友人も同じく小盛りを選択し、注文を終えた。
しばらくすると、わたしの定食を筆頭に全員の食事がテーブルに並べられた。その瞬間、わたしは殺意と危機感に見舞われた。
(明らかに米の量が少ない!!!)
たしかにわたしのライスは通常よりもてんこ盛りで大満足。だが、友人らのライスが明らかに少ないのだ。あれほどまでに「わたしが食べる」と宣言したにもかかわらず、彼女たちは自分の胃袋におさまる程度の量しか、ライスを注文しなかったのだ。
(う、裏切られた・・・)
絶望しか感じられないわたしは、すぐさまライスとおかずとの配分比率を計算しはじめた。じつはこの定食、本名を「焼赤丼」と言い、焼きハラスといくらの丼だと思って注文したのだ。だが実際にはライスとその他で分かれており、自分で乗っければ「丼」になるという感じ。
しかし、米とその他を好きなタイミングで味わえるメリットを考えると、適宜それぞれを口へ運ぶことにした。
ところが食べ始めて気づいたことがある。わたしの当初の予定では、友人二人のライスをかき集めて一人前のライスを作る予定だった。そのため、焼きハラスといくらで一杯、まぐろ納豆で一杯という割合で完食しようと目論んでいたのだ。
ところが友人らのライスが予想をはるかに超える少なさだったため、この計画は脆くも崩れた。そこでわたしは全神経を集中させ、決して魚が残らないように米の量を調整しながら口へと運んだ。
(しまった!つい米米と2回連続で米を入れてしまった)
米好きのわたしは、油断すると米ばかりに箸をつける癖がある。おかわり自由ならば気兼ねなく掻っ込めるが、今回はそうではない。細心の注意を払って再計算し、食事を続行する。
「・・・聞いてる?」
友人の問い掛けでふと我に返る。米と魚の配分調整に必死すぎて、彼女たちの声など耳に入らなかったのだ。
――いや、ちがう。おまえらが米を普通盛りにしなかったせいで、わたしはこんな苦労と苦痛を強いられているんだ。飯代払え!!
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