目黒駅のミンミンゼミ

 

ミーンミンミンミンミンミーーン

目黒駅からピアノ教室へ向かう途中、わたしはなんとも表現し難い切なさと絶望を感じた。

今日は9月18日、もはや夏ではない。場合によっては長袖を羽織るのがちょうどいいくらい、気温も落ち着いてきている。そんな、秋に片足を突っ込みかけている今、なぜミンミンゼミが鳴いているんだ——。

 

蝉は通常、生まれてから2~7年ほどを土の中で過ごした後に、地上へ出て羽化し成虫となるのが一般的。ちなみに、北米には「素数セミ」や「周期セミ」と呼ばれる種類が生息しており、彼らは17年または13年という素数の周期で地上へ出るのだそう。

いずれにせよ、地上へ出る目的は繁殖一択であり、「ミーンミンミン」「ツクツクボーシ」と五月蠅く鳴くことでメスを引き寄せ、交尾を行い子孫を残して死ぬ・・というのが、彼ら蝉の一生のサイクルなのでである。

 

日本の蝉でも北米の蝉でも、生まれてから99%を地中で過ごし、わずか1%の期間のみ地上へ出てわれわれの前で鳴いてみせるわけで、むしろ死を迎えるために地上へ出るといっても過言ではない。

そんな、人生最後の集大成として姿を現した蝉——中でも彼はミンミンゼミであるが、いわば季節外れのこの時期であること、そして哀れにもたった一匹でミンミンけたたましく叫んでいることに、ある種の胸の痛みを感じずにはいられなかった。

 

変温動物である蝉は、気温が高いことで活発に飛んだり鳴いたりする。さらに、樹木が青々と生い茂っていることや、卵から幼虫が孵化して地中へ潜るのに適した季節であることからも、「夏」という時期を選んで繁殖を行っている。

そして、繁殖というからには交尾の相手が必要。なお、鳴いているのは全員オスのため、彼の相手となるメスの存在が必須なのだが、秋の入り口である今となっては蝉の死骸すら転がっておらず、卵を産める元気なメスがこの辺りに生存している確率は低い。

とはいえ、メスは鳴かないから気づかれないだけで、じつは枝葉の間に紛れているのかもしれない。よって、季節外れの一匹の声だけで落胆するのは早計だが、それにしても9月後半のこの時期にミンミンゼミが鳴いていたとて、明るくポジティブな要素は皆無である。むしろ哀愁のみが漂っているだけで——。

 

ミーンミンミンミンミンミーーーン

 

エネルギッシュに鳴き叫ぶ彼の声——正確には、腹部にある発音筋と発音膜によって作られた音が、空洞の腹部を共鳴装置として増大させることで、小さな体からあれだけの大音量が発せられるのだが、メスを呼び寄せるためのアピールであるにもかかわらず、目黒駅周辺に響き渡るのは彼の声のみ。

 

*

 

足早にピアノ教室へと向かうわたしは、どれだけ離れても聞こえてくる蝉の鳴き声を背中で受けつつ、なんとも切ない想いに駆られるのであった。

 

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