スプーン曲げ

 

大型で強い台風25号が関東へ接近している間、特にすることのないわたしは、突如スプーン曲げに挑戦しようと思い立った。

 

そもそもの発端は、台風による食糧不足に備えて事前に購入していおいた「HERSHEY’S(ハーシー)チョコケーキ抹茶」の味を確かめたところ・・全然美味しくないではないか!!

(どこが抹茶だ?!単なる緑色のクリームを挟んだだけではないか?!)

お口の恋人ロッテが、よくぞまぁこんな紛(まが)い物を製造したものだ。日本企業が・・といいたいところだが、半分以上は韓国の血が流れているわけで、和の心を叫んだところで致し方ないか——。

 

というわけで、抹茶フリークのわたしが満を持して購入した抹茶菓子があまりに不味かったことで、半狂乱となり精神錯乱状態に陥りかけたところ、目の前にスチール製のスプーンがあることに気がついた。

(今なら、このスプーンを曲げられるかもしれない・・)

なぜこんなことを思ったのかは自分でも分からない。だが、なぜか無性にそんな気がしてならなかったのだ。そしておもむろにスプーンを取りあげると、指先で両端をつまんでユラユラと揺らし始めた。

 

(ギュッと握ってはいけない。もしかすると無意識に力が入り、物理的に変形させてしまう恐れがある。よって、あくまで軽く支える程度にしなければ)

万が一にもズルをしないように、細心の注意を払うわたし。こういうことは前提条件を明確にしておくべきなので、決して握力や腕力でどうにかならぬようしっかりと配慮を施した。

 

そして5分が経過した——変化なし。

まぁそうだろう。初めて挑戦して5分で達成してしまったのでは、スプーン曲げ名人を廃業に追い込むことになる。ここはじっくりと時間をかけて曲げていこう。

 

10分が経過——変化なし。

こちらとて、そうすぐにグニャっといくとは思っていないが、もうそろそろ何らかの兆候があってもいいだろう。もしかすると、イメージする力が弱いのか?

 

そこでわたしは、スマホで流していたアニメを止めると、視線をスプーンに集中させた——この柄の部分がグニャグニャになって、急に頭がポロっと落ちる。女の腕力ではビクともしないスチールが、強く念じることで柔らかくなり、まさかの状態変化を遂げるのだ。

 

額に汗がにじむほど集中して念じること5分、スプーンは相変わらず購入時と同じフォルムである。

(やはり、スプーンを曲げられるのは限られた者だけなんだ。素人が見よう見まねで挑戦したところで、金属の構造を変えることなどできないんだ・・)

当たり前だが、ただ念じるだけで金属が曲がれば、わたしはそれだけで飯を食っていける。しかも、そういう能力のある者は少なからず過去にも何らかの経験があるわけで、UFOを見たこともなければ金属を変形させたこともないわたしが、ちょっと念じたところでスプーンが曲がるはずもない。

 

(やめたやめた、バカバカしい・・)

内心そう呟きながらスプーンを洗ってしまおうとしたところ、水滴の付いたスプーンが今にもグニャっといきそうな柔らかさに見えるではないか。も、もしかすると今なら曲がるかも——。

 

それから5分が過ぎた。

無論、スプーンはさっきから同じ状態でそこにいる。濡れていようがいまいが、スプーンの柄が曲がることはなかった。

 

そして、今度こそ「こんな茶番はやめにしよう」と思った矢先、一瞬スプーンが曲がったように見えた——ま、まさか!?

揺らしていた手を止めてスプーンを観察すると、頭と柄を繋ぐ部分が緩やかに変形しているではないか!!ついに、ついに曲げてやったぞ!!!

 

・・と喜んだのも束の間、曲がり具合を確かめるために同じ形のスプーンと重ねてみたところ——ピッタリ合うではないか。

 

*

 

冷静さを取り戻したわたしは、改めてスプーンを洗い直すと水切りかごへ放り込んだのである。