「綾瀬はるか」のはずが、よく見ると幻の熊・ビズリーだった話

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女の酔っ払いほどタチの悪いものもない。

基本的に私は、酔っ払いが嫌いだ。

間違いなく嫌いなのだが、なかには「愛すべき酔っ払い」もいるので、そこは多めに見るしかない。

 

先日、前触れもなく呼び出されたのは自称・綾瀬はるかの自宅。

そこには、自称・吉田羊も同席していた。

 

 

そもそも初めての訪問ゆえ、建物は特定できたが部屋番号が分からない。

何度か連絡するも、酔っ払いは返事をしない。

 

(しかたない、嗅覚に頼るか)

 

本日、吉田から送られてきたメッセージを集約するに、

「美味しい料理が次々と出てくる状況」

であることが分かっている。

 

そこで自慢の鼻をヒクつかせた。

 

まずは201号室ーー

(ちがう。電気すらついていない)

 

つぎに202号室ーー

(ごま油のにおいはするが騒がしい声が聞こえない、ちがう。)

 

そして301号室ーー

(・・・あやしい)

 

料理のにおいと人間の存在を感じる301号室のチャイムを鳴らす。

しかし誰も出てこない。

 

数分前に、

 

「何号室?」

 

と送ったメッセージが既読にならないことにイライラしながら、再度、チャイムを鳴らす。

 

(・・居留守だな)

 

玄関モニターから訪問者を確認し、完全に怪しい女がチャイムを押しまくっていると判断されたのだろう。

やむなし。

 

気を取り直して302号室--

(置いてある自転車が小さすぎる、ちがう)

 

こうして私は部屋をかたっぱしからクンクンし、綾瀬と吉田の居所を突き止めようとしたが失敗に終わりそうだった。

 

とその時、

 

「601だよ」

 

吉田から返信がきた。

 

ちょうど303号室のチャイムを鳴らしたところだが、応答を待たずして私は6階へと向かった。

 

 

部屋に踏み込むと、すでに出来上がっている自称・女優たち。

 

「もぉー、あんたなにしてんのよぉ、はやくすわんなさいよ!」

 

〇年前ならば、綾瀬はるかに激似だったのだろうから、ウザ絡みされても耐えられたと思う。

しかし今はどうだ。

面影というより、部分的に綾瀬に似ている箇所が点在するだけで、トータルするとピズリー(幻の熊)にしか見えない。

 

私が持参したポリンキーを断りもなく派手に破り開ける姿など、クマそのものだ。

そして勝手に開封したポリンキーを、むさぼるように口へと運ぶ綾瀬。

そこには美人女優の面影など微塵もなかった。

 

「ほら、チョコだよー」

 

こちらは酔っぱらって上機嫌の吉田羊。

今日は珍しくばっちりメイクで色気づいている。

 

(まゆ毛をこれだけ立派に描いても、こじんまりとした顔だと違和感なくマッチするんだな)

 

冷静に女優の顔面を品定めする。

そんな吉田は私を手なづけようと、大好物の「リンドール」を箱入りで与えてきた。

この「明らかに正しい行為」により、私は吉田に対して忠誠を誓う。

 

早速、リンドールを一粒食べようとした瞬間、

 

「こらっ!!」

 

綾瀬がいきなり愛犬の頭を引っ叩いた。

目を真ん丸にひん剥いて驚くは、被害者であるミニチュアピンシャー。

そりゃそうだ、こんな大型ピズリーに叩かれたら、脳震盪どころか即死の可能性まである。

 

「ちょっと!なんで叩くの!」

 

小型犬をかばう霊長類最強戦士、ゴリラ(私)。

 

「だってこの子、かっぱえびせん食べたから」

 

「食べてねーーーよ!!!」

 

その場にいた全員が声を揃えて反論する。

ミニチュアピンシャーは、かっぱえびせんなど食べていない。

それなのに酔っぱらった綾瀬、もといピズリーが勘違いをし、その小さな頭を引っ叩いたのだ。

 

恐れおののき涙目で逃げるピンシャー。

 

私は、綾瀬ピズリーのおでこを引っ叩いた。

 

「ピンシャーに謝れ!」

 

「えー、だって食べたでしょぉ?」

 

そう言いながら私に擦り寄るピズリー。

これはもはや、クマとゴリラが抱擁を交わす画でしかない。

 

自然界の奇跡。

 

 

そういえば驚いたことが一つ。

私の悪口を散々言い尽くした後、

 

「でもあたしはさぁ、この子が好きなのよ」

 

と独り言のように呟きながら、ドサッと崩れ落ちる大型ピズリー。

こんな手のかかるクマを、大切に飼育してくれる飼育員パートナーが存在することにビックリ。

 

(メス力の高いクマなんだな)

 

言うなれば、クマ界の綾瀬はるかーー

これならば、間違いなく激似であると豪語できる。

 

自然界とは不思議な魅力でいっぱいだ。

 

 

Illustrated by 希鳳

 

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