クソ寒い横川サービスエリアで、どうやって暖をとったのか

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本日は寒かった。ここ最近で最も寒かったが、そんな日に限ってわたしは標高の高い・・というか妙義山と浅間山と一ノ字山に囲まれた、横川サービスエリアに佇んでいた。

早朝に都内を出発した時点で気温は8度・・ということで、真冬の服装で長野へと向かったわけだが、その途中でわたしを待ち受ける"碓氷峠"の寒さは尋常じゃなかった。温度計を見ていないのでハッキリとした気温は分からないが、「とにかく寒い」の一言に尽きる。それこそ、刺すような寒さに身動きが取れなくなったわたしは、顔面蒼白のまま佇んでいたのである。

(まずい、このままでは凍死する・・)

もちろん、ジャケットを羽織って東京を出たが「ちょっとトイレに立ち寄るだけだから」と、ついつい車内に置いてきてしまったのだ。車を降りた直後はまだよかった。あぁ寒いな・・という程度で、建物内に入ればどうにでもなると思っていたからだ。

ところが、車から店舗までのちょうど中間地点で、わたしは寒さのあまり足が前に出なくなってしまった。

(戻るか走るか、どちらにしても地獄じゃないか・・)

一瞬迷ったが、「ここまできたら後戻りはできない」と、よっぽどのことがない限り行わない全力ダッシュをかましたのである。

 

そして屋内に避難したはいいが、だからといって店内がとても暖かいわけではない。さすがに二重扉で寒気をシャットアウトする態勢は整っているが、そんなもので口元がほころぶほどの暖はとれない。あぁ、どこかで生気を取り戻さなければ——。

血眼になって暖かい場所を探したわたしは、とある音声とのれんに引き寄せられた。それは、石焼き芋だった。

独特のトーンで焼き芋を宣伝する声が収録された音源が、エンドレスに流れるスピーカーの下には、暖色系の電球でライトアップされた石焼き芋がズラリと並べられている。そんな"見ているだけでポカポカになれる石焼き芋"の元へと、躊躇なくわたしは走った。——これで、本日二度目のダッシュ。年に何回もダッシュしないわたしが、一日で二度もダッシュしたのだからもはや事件である。

 

だが残念なことに、紙袋に入った焼き芋が並べられている黒く平らな石——およそ黒玉石(こくぎょくせき)か雨花石(うかせき)だろう——に手をかざしても、暖をとれるほどの熱を得ることはできなかった。むしろ、上から当てられている電球の熱のほうが温かいわけで、そこにわたしが手をかざしていたら焼き芋が冷えてしまうではないか。

などと取り留めもない妄想を抱きつつも、とりあえず焼き芋を手に取りレジへと踵を返した瞬間——み、見つけた。とうとう見つけたぞ、あそこだ!!!

未購入の焼き芋を抱えながら、本日三度目のダッシュを繰り出したわたしは、一目散にホットドリンクの陳列棚へと滑り込んだ。そう、これこそが正真正銘の"暖をとれる場所"なのだ。

 

真冬のコンビニやスーパーにおける生鮮品売り場は、いわば拷問エリアといえる。どんなに買いたいものがあったとしても、わたし一人の力ではそれらに手を伸ばすことはできず、誰かに頼む以外に方法はない。そのくらい、あの極寒エリアへは近づきたくない・・いや、近づけないのである。

じゃあ一体どこにいるのかというと、そう・・ホットドリンクコーナーだ。わたしは、入店と同時にホットドリンク売り場へ直行すると、そこで10分は動かないようにしている。

正確には"寒さのせいで10分くらい動くことができない"のだが、あれほど確実に体を温められる器具というのも他にはない。なんせ、キャップを開けたら湯気が出るほどの、熱々のボトルドリンクを温め続けているわけで、そのためには相当の熱量が必要となるからだ。

 

そして、火傷するほどの熱をおすそ分けしてもらったわたしは、しばらく暖をとってから店を後にするのが、冬場の常なのである。

(要するに、とうとう冬がやってきたんだな・・)

 

 

横川サービスエリアの"ホットドリンク売り場の番人"となったわたしは、不審そうにこちらを見る利用客を睨み返しながらも、着々と体を温めるのであった。

 

Illustrated by 希鳳

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