派手なドラム缶が美しいカットソーに変わる時

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数年前、たしかロサンゼルスかどこかのアウトレットで、TOMMY HILFIGER(トミー・ヒルフィガー)のカットソーを購入したわたし。鮮やかなレッドと深いネイビーの二色で構成された、太いボーダーニットである。

左胸には、トミーヒルフィガーのマークが小さく刺繍されており、華やかなカラーリングの中にも小さなオシャレが埋め込まれている、とてもかっこいいカットソーだ。

 

ちなみに、サイズはXSを選んだ。アメリカサイズというのは恐ろしくデカいため、日本人女性ど真ん中の体型であるわたしは、XSかSで十分だからだ。

実際に、アメリカサイズのスパッツやTシャツはXSを選んでいる。多少きつくても問題ない衣服に関しては、デカすぎるリスクを考慮して、小さめのサイズを選択することにしているからだ。

だが今まで、XSが小さすぎることなどただの一度もなかった。むしろSが予想以上にデカくて、オーバーサイズとなることが何度もあったほどで。

 

そのため、トミーヒルフィガーのオシャレボーダーニットに関しても、ピッタリフィットを狙って躊躇なくXSを選んだのだ。

そもそもボーダー柄は太って見えやすいため、ダボっと着るよりはピタッとしているほうがいいはず——。そんな下心も相まって、一目ぼれしたこのカットソーを掴むと、颯爽とレジへと向かったのである。

 

 

——あれから数年が経過した。

昨日、秋本番の気配を察知したわたしは、ひそかに衣替えを敢行した。その際に、クリーニングの透明ビニール袋に入れられた、トミーヒルフィガーの赤紺ボーダーニットを発見したのだ。

・・あれほど気に入って買ったにもかかわらず、いったい何回着たのだろうか。

 

アメリカサイズだからなのか、はたまたトミーヒルフィガーというブランド特有のフォルムなのかは不明だが、全体的に縦長でシュッとしているニットは、手足が短くずんぐりむっくりしたわたしには、とても不似合いだった。

着用してみて驚いたのは、袖口(袖の内径)が細すぎて二の腕と前腕で詰まってしまったことだ。ニットゆえに強く引っ張れば伸びてしまうだろう。そのため、そっと左右に動かしながら指先のほうへとずらしていく——。すると、袖が長いからかわたしの手が短いからか、手の甲まで覆われてしまったのだ。

さすがにこれでは都合が悪いので、ふたたび前腕方向へめくっていくも、袖の輪っかが狭いニットの目は広がってしまい、なんとも可哀想な状態となった。

 

さらに気になるのは、腕を上げると脇の辺りが引っ張られることだった。先にも述べたが、全体的に細身のシルエットのため身幅に余裕はない。そのため、比較的筋肉質なフォルムのわたしが着ると、首も肩も脇も胸も腹もパツパツになってしまうのだ。

(ニットだから、多少は伸びるだろう・・)

そんな希望的観測を抱きつつ、冷蔵庫を開けようとしゃがんだ瞬間、パツパツのニットがずり上がりわたしの腹があらわになった。

 

——わたしは本場アメリカで購入した、トミーヒルフィガーのオシャレボーダーニットを着ている。カラダのラインが美しく映えるであろう、ピッタリサイズのカットソーだ。おまけに鮮やかな赤と紺の太ボーダーが、流行り廃りを超越したスタイリッシュな存在感を放っている。

・・・はずだった。

 

それから何回か試してみたが、どんなパンツと合わせようが、赤青のシマシマが目立つドラム缶にしか見えなかった。よく言えばガタイの良いラガーマン、あるいは派手な囚人といったところ。

それにしても、いったい何が悪かったのだろうか——。

未だにその理由は分からないまま、衣装ケースの奥で眠っていたカットソーを取り出すと、友人であるお嬢さまにスルーパスすることにした。

 

なんせ彼女は細身で手足が長い。アメリカサイズのXSとはいえ、このカットソーはピッタリ合うだろう。太ボーダーは彼女の好みではないかもしれないが、ゴルフの時にでも着てもらえれば御の字だ。

 

 

「どうかな?」

トミーヒルフィガーのカットソーに袖を通したお嬢さまの姿には、驚きを隠せなかった。

 

——なぜ腹回りの生地にゆとりがあるのだ?さらに、二の腕から肘にかけてのあの細さはなんだ?おまけに、横から見た体の薄さたるや、守ってあげたい女子そのものではないか!

 

わたしは、このカットソーを着るのも脱ぐのも一苦労だった。そして鏡越しに「なんだこの肉厚な樽みたいな上半身は?」と、毎回不思議に思っていた。そして、誰もがこうなるとばかり思っていたのだ。

ところがどうだ。お嬢さまならばこんなにもゆったりと、そしてカットソーのポテンシャルを最大限に引き出せるというのか——。

 

そうか・・ヒトが服を選ぶのではない。服がヒトを選ぶのだ。

 

サムネイル by 鳳希(おおとりのぞみ)

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