じゃりンゴ知恵

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元産廃ダンプ乗りで長距離トラックドライバーでもある友人に、「どんな人がダンプ乗りに多いか」と尋ねた。

「一言でいうとバカ。しかもバカの中でもトップ・オブ・トップ!」

ひどい言い草だ。少なくとも公道を走るわけで、常に道路交通法を遵守しなければならず、バカでは務まらないだろう。

「あとはみんな気がちっちゃい。ダンプ乗ってるから態度デカくなるだけで」

そんなこともないだろう。たしかにダンプカーの圧はすごいが、それはあのフォルムによるもので、運転手の態度で左右されるものではないと思うが。

 

友人がここまで悪口を言うのには理由がある。それは彼自身が学歴コンプレックスを抱えているからだ。漢字が読めなかったり、歴史を覚えられなかったり、ちょっと難しい経済ネタの話題が始まると、顔色を曇らせる。

どうせ俺はバカだから――。

だが不思議と、私は彼をバカだと思ったことはない。むしろスゴい能力を持っていると感動するほど。

 

たとえば友人は、自ら油圧ショベルを操作して砂利を積む仕事もする。なぜその仕事を頼まれたのかというと、「下手なオペレーターよりも早く積めるから」だそう。

「たとえば俺ならダンプ1台につき5分で回せる。でも下手くそがやると7分、8分かかったりする。そうなると砂利待ちのダンプで大渋滞になる」

なるほど。一回きりならば「たった数分の違い」で終わる話だが、次から次へとやってくるダンプをさばくには、いかに速く正確に積めるかがカギとなる。

 

「あと、下手くそはバケットの動かし方が雑だから、ダンプの横に付いてるライトを割っちゃったりするんだよ」

砂利をダンプへキレイに落とすには「滑らかさ」が必要なのだそう。急に動かせば、その勢いで砂利がバケットからこぼれてダンプカーを傷つける。さらに友人はスピーディーなだけでなく、荷台の砂利を均等に敷き詰めていく。

砂利が均等に載っていなければならない理由は、ドライバーの安全を守るためでもある。ダンプカーの後方に砂利が偏っていると、運転席を含む前方が軽くなる。すると、いざ曲がろうとしたときにダンプカーが言うことを聞かなくなる。そのせいで事故を引き起こしたり、曲がれない恐怖から運転速度が落ちたりと、ドライバーのストレスがたまる。

自身がダンプ乗りも兼ねているからこそ気づく、当然の気遣いなのだろう。

 

また、砂利を削り出しながらも「地面を平らにする配慮」を忘れない。山肌を削ってはダンプへ盛る、再び削っては盛る、削っては盛る・・・。この繰り返しにより、過去に削った場所でダンプは新たな砂利を待つことになる。

つまり、削った地面がデコボコではダンプが入ってこれないのだ。

そんなこと、考えたこともない私は感動した。当事者にとったら当たり前のことかもしれないが、現在進行中の作業だけでなくその先のこと、同じ現場で作業をする他社の人間のこと、そして自分自身の足場も計算しながら仕事を進めるというマルチタスクっぷり。それらを実行するには、どれほどの技術や計画性、さらにとっさの判断や瞬発的な対処を要することか。

 

滑らかな動きこそが、丁寧で無駄なくスピーディーに作業を進めるコツだ、という友人の言葉を聞いて、

「バカはどっちだろう?」

と思った。有名大学を出て有名企業に勤める高給取りが、リアルに結果を突き付けられる現場作業をやらされたとして、果たして足を引っ張らずに一日を終えることができるだろうか。

もちろん適性はあるし、頭の良し悪しだけの問題ではない。だが、いわゆる「低学歴」と揶揄される人たちのほうが、物理的な処理能力に長けている気がするのは偶然だろうか。

 

かつて弁護士の友人が、ベラルーシでつぶやいた言葉を思い出す。

「オレがこの国に残されたら生きていけない。だって、ロシア語の分からない日本人弁護士だから」

その通りだ。だがダンプカーの運転手や重機オペレーターは、国境を越えて仕事に就くことができる。そして見事な作業工程を見せれば、言葉など通じなくとも評価され、重宝がられるだろう。

 

人間が伸ばすべき能力は、受け身の授業や暗記テストではなく、単純に「なにかを作り上げること」である気がしてならない。

 

サムネイル by 希鳳

 

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