わたしは今日、最低なことをした。
「した」というより「思った」というのが正確な表現になるが、とにかく一瞬でもあらぬ疑いをかけてしまった自分が恥ずかしいし、日本国民として最低だと心の底から反省している——という前提で聞いてもらいたい話がある。
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JR亀有駅前は大勢のヒトで賑わっていた。
どうやら今日は祭りがあるらしく、普段よりもバラエティー豊かな面々がたむろっている。地元に住む者のみならず、大きなスーツケースを転がす外国人、子ども連れの家族に高齢者同士のグループなどなど、その顔ぶれからも今日が単なる休日ではないことを物語っていだ。
そんな人混みをかき分けて、わたしはベックスコーヒーへと向かった。
駅改札の目の前という好立地のカフェであり、ちょっとトイレを借りるのに都合がいいと思ったわたしは、前に並んでいる三人家族に続いて入店した。
店内はまばらに混んでおり、空いている席がないわけではないが、三人が一緒に座れる場所はない——その状況を確認した家族は、子どもと母親が着席し父親が立って過ごすという選択をした。まぁたしかに、これだけ人が多ければ三人座れる席が空くのを待つだけ、時間の無駄だろう。
それに比べて一人身のわたしは気楽である。ぱっと見ただけでも一人用の席はたくさんあるため、予め確保しなくても注文後で十分足りるからだ。
そんなこんなで、レギュラーサイズのコーヒーを受け取ると適当な席へ向かい、肩に掛けていたバッグを椅子に置きトイレへと向かった。
この店にはトイレが一つだけある。そのため、利用客によっては自分の個室のような身勝手な使い方をする者がいるのだろう。それ故に、トイレのドアにはこんな張り紙がされていた。
「トイレ内でのメイクや喫煙は禁止します。また、長時間(10分以上)の使用もお断りします。あまりに長い使用の場合、声掛けをさせてもらったりロックを解除したりすることがあります」
常識的に考えて、さすがに10分以上籠(こも)るのは長すぎる。しかも、店内にトイレは一つしかないわけで、そこでメイクやらなんやら長時間占領されたのでは、他の客がもらしかねない。
しかも、おそらくそういった配慮に欠ける低俗な客が多いのだろう。それは場所柄なのか——なぜなら、うちの近所にあるスタバもトイレは一つだが、そんな張り紙はされていないし、長時間占領する客によるトラブルというのも見たことがないわけで。
となると、マナー知らずの身勝手な輩が多い地域なのかもしれない・・・ハッ!!
その時、わたしの目にさらなる張り紙が飛び込んできた。
「店内での置き引きが頻発しています。席を立つ際は必ず手荷物を持って移動してください。なお、店側は置き引きによる責任を負いません」
(ま、まずい・・荷物どころかスマホや家の鍵まで置きっぱなしだ!!)
わたしは青ざめた。あんなにも無防備に荷物を置いてきてしまったことを悔やむと同時に、ここ日本において盗難事件が起こるはずがない・・と勝手に思い込んだ己の平和ボケ具合いを呪った。
なぜならここは、港区ではなく葛飾区。駅前には見るからに悪そうな輩がウロウロしていた。おまけに、観光客なのか移民なのか分からないような東南アジア系の団体も目撃した。それよりなにより、一杯のコーヒーを三人で啜るような貧しい家族の目の前に、大きく口が開いたバッグを放置するなど「どうぞ盗んでください」と言っているようなもの。
とりあえず、パソコンを入れていなかったことが不幸中の幸いだが、スマホを盗られるのは痛い。痛すぎる。しかも、バッグごと持っていかれたりすれば、中には道着や着替えが——あぁ、今日持ってきたのは一番新しい道着ではないか。
挙句の果てに、この店は駅改札の目の前にある。もしもバッグごと盗られたとして、店を出てそのまま電車に乗られたりすれば、もはや終わりである。バッグごとではないにせよ、スマホを盗まれたらマジで色々と詰みではないか!!!
(まずは電話とクレカの使用を停止して、それからモバイルバンクにも連絡して・・って、今日は銀行休みか。いや、その前に電話がないのにどうやって連絡すればいいんだ?あぁぁ、最悪すぎる!!!)
あまりのパニックで半狂乱となったわたしは、トイレのドアを蹴破るとバッグの元へと一目散に駆けつけた・・・・あ、あった。
一杯のコーヒーを三人で分け合う家族も、なぜか店内で立ち話を続ける老人も、血気盛んでやんちゃな兄ちゃんたちも、数分前と変わらぬ状態でそこにいた。
その瞬間、わたしは全ての葛飾区民に向かって土下座をしたい気持ちになった。
「本当に・・ほんとうに申し訳ございませんでした!!!」
東京拘置所(足立区だと思われがちだが、住所的には小菅なので葛飾区)を抱えており、道を歩けば吐瀉物がまき散らされている亀有駅周辺の様子からも、葛飾区に対して勝手にネガティブなイメージを抱いていたわたし。
だが、そこで暮らす人々はこんなにも真っ当で良識ある人々ばかり——あぁ、地面に頭をこすりつけて謝罪しても足りないくらい、葛飾区の皆さまにあらぬ疑いをかけてしまったことをお詫び申し上げます・・・。
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よって、ここしばらくの間は「23区内で最も素晴らしいのは、葛飾区」ということで、どうにか納めてもらいたいのである。










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