(あぁ・・マジでわたしはバカなんじゃなかろうか)
たった一瞬の出来事ではあるが、己のバカさ加減に腹が立ちいたたまれない気持ちになるわたし。
こんな簡単なことすら思いつかないなんて、いかに視野が狭くて頭が固いのか——こういう人間のことを「バカ」と呼ぶのだ。少なくともわたしは、そんな自分が許せないのである。
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一週間前、洗い終えた衣類を洗濯槽から取り出していたところ、引っ張り出したタオルにくっついていた靴下の片方が、勢いよく飛び出したかと思えばそのまま壁に激突し、あっという間に洗濯機の隙間へと消えていった。
そもそも我が家は「広い犬小屋」と揶揄されるほど、犬にとっては広々とした空間であるがヒトならば「定員一名」の窮屈な箱。そんな我が家の洗面所は、当然ながらゲキ狭であり洗濯機のサイズが限定されるほどコンパクトな作りでできている。
しかも、未だに理解に苦しむのが「洗面所エリアの床が中央に向かって傾斜している」ことだ。洗面台、洗濯機、バスタブ、リビング——この四方向から洗面所の中央に向かって緩やかな傾斜がついているため、そんなところへ洗濯機を置けば振動により勝手に歩き出してしまう。それどころか、水平でないことで安全装置が作動し、洗濯機自体がスタートしないあるいは途中で止まる可能性すらある。
というわけで入居間もない頃、”学校の勉強はてんでダメだが、図面を引かずに家を建てられるDIY巧者”である我が相方を招集し、洗濯機の設置を依頼したことがあった。すると彼は、洗面所に入るや否やあぐらをかいて床の傾斜や配置を確認し、持参した水平器と角材、厚手のゴムシートなどを取り出すとすぐさま作業に取り掛かった。
出来上がるまでに何時間かかるか分からない。よって、その場を離れたわたしは自分の仕事を始めたのだが、大した時間は経過していないにもかかわらず「できたよー」という相方の声が——いやいや、さすがに早すぎるだろう。
どれだけ手を抜いたのか、はたまた何か勘違いをしたのか、若干の苛立ちを覚えつつ洗面所へ足を踏み入れたわたしは度肝を抜かれた。そこには、しっかりと組み上げられた「洗濯機置き台」の上に我が洗濯機が鎮座しており、水平器は見事に「レベル」を示しているではないか。
マンションに備え付けの「洗濯機バン」を持ち上げることはできないため、バンの上に水平を保った土台を設置し洗濯機を置く・・という作業だったわけだが、何をどうすればそのような置き台が完成するのか、どれだけ頭を捻ろうが一生かかってもわたしからアイディアが生まれることはない。
だが相方は、事前調査もなく行き当たりばったりであるにもかかわらず、見事な置き台を作り上げてしまったのだ。しかも、10年経った今でも洗濯機を水平に支えてくれる立派な「非売品」を。
(ていうか、他の居住者はどうしているんだろう。入居当初、脱水のたびに移動する洗濯機を、体を張って必死に抑えた記憶があるんだけど・・まさか、床に傾斜がついているのがウチだけとか?!)
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そんなわけで、勢いよく飛んでいった靴下が洗濯機と壁の隙間に落下したのだが、当然ながら物理的に手は入らないし、棒を使って引っ掛けようにも相方お手製の”洗濯機を囲うフレーム”が邪魔で入らない。
だがわたしは、少し前に同じ隙間へ柔軟剤のボトルを落とした際に、洗濯機を逆側に傾けることで生まれたスペースへ腕を突っ込んで、あっさりとボトルを取り出した相方の行動を覚えている——よし、アレでいこう。
さっそく洗濯機を傾けて重さを支えつつ、右腕を隙間へと伸ばした——と、届かない!!
柔軟剤のボトルは縦にストンと落ちたので、上部に触れられればそれを持ち上げることができた。だが今回は「薄っぺらい靴下一枚」が床に寝そべっているわけで、よほど手が長くなければ届かない。しかも、腕を伸ばそうとすれば洗濯機のバランスが崩れて元に戻ってしまうので、どうやっても詰みではないか。
途方に暮れるわたしは、最終手段として相方を招集した。果たして奴はどんな裏ワザを披露してくれるのだろうか。
まずは洗濯機を傾けて右腕を伸ばす——うん、ここまではわたしと同じだ。さぁ、次はどう出る?!どんな奥の手を使うんだ?!——と次の瞬間、相方の手には落下した靴下が握られていた。
(・・・は???)
どういうことかというと、洗濯機を傾けたことによりできたスペースに上から手を突っ込んだのでは届かない。ならばと、「洗濯機の底」と「置き台」の間にできたスペースへ腕を差し込み、さらに洗濯機へ側頭部を押し付けるようにして目一杯伸ばすことで、どうにか指先で靴下をつまみ上げたのだ。
(そ、そうか・・隙間は「上」だけではなかったんだ)
小学生、いや、むしろ幼稚園児でもひらめきそうなアイディアであるにもかかわらず、大のオトナが手も足も出ないのだから恥ずかしいどころの話ではない。
しかもわたしは、どちらかというと突拍子もない考えが浮かんだり、ゼロから何かを作り出すことが得意だったりするのに、このような「物理的な空間認識能力」に関して想像以上に欠如していることが、弱点であり致命傷であると自負している。
だから、柔術が上手くならないんだ——。
視野が狭いとか頭が固いとか、あるいは「真面目に考えすぎている」とか「言われた通りにやろうとしすぎている」とか、表現の仕方は色々あるだろう。だがそれ以前に、わたしの「脳のタイプ」がこういった動作に不向きなのだ。
「パンチがきたら、ガードやパーリング以外に防ぐ方法が思いつかない」
「簡単だよ、こうすればいい」
そういって、スッと頭を横へ倒す友人の姿を見て、あまりの驚きに言葉を失ったことがある。言われてみれば確かにその通り。正面からくるパンチに対して、手を使って顔面を守ることしか思いつかないわたしにとって、まさか横や下へ避ければパンチを交わせるだなんて、思いもよらないアイディアだったのだ。
とはいえ、ないものねだりに固執しても先はないし不幸になるだけ。ならば、今ある自分にできる精一杯を追究するのがベストといえる。
それよりなにより、今後は洗濯物を落としたとしても、上か下かいずれかの空間へ手を突っ込めば落下物に手が届く・・という知恵を得たわけで、それだけでも十分ではないか!
——こうして、単純な思考回路のわたしは今日も幸せに生きるのであった。











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