我が腸内細菌の実力

 

わたしは分かっていた。言われずとも分かっていたのだ。だからといって手を出さずにはいられなかったし、ひと口食べて捨てることなどできるはずもなかった——たとえそれが腐っていようとも。

 

冷蔵庫で眠っていたとある貴重な木綿豆腐をとりだしたわたしは、賞味期限が二日ほど過ぎていることに気が付いたが、「だからどうした?」 というわけでさっそく開封すると、カレー用のスプーンを突き刺して豆腐を口へと放り込んだ。

(・・これは美味すぎる。なんだこの舌ざわりは、そしてまろやかなコクは!?)

それは、徳島県鳴門市に店を構える、天然にがり・国産大豆100パーセントの太子屋(たいしや)が誇る「うず潮もめんどうふ」だった。都内在住でこの貴重な豆腐を手に入れられた理由は、近所で月に二回ほど開かれる”軒下マルシェ”にて、全国を飛び回っていいものを買い付けてくる店主がこの豆腐に目を付けたため。そして先週、この「奇跡の豆腐」といっても過言ではない美味さのもめん豆腐を購入できたのである。

 

スーパーなどで売られている豆腐よりもさらに横長なパックに、ずっしり380グラムの手作り生とうふが入っているのが「うず潮もめんどうふ」の特徴。

ちなみに「生とうふ」とは、パックへ詰められた後に加熱殺菌(ボイル)処理を行わず、作りたての状態で急速冷却された豆腐のことを指す。市販されている豆腐の多くは日持ちさせるために熱処理を施してあるが、生とうふは再加熱しないため大豆本来の甘みやコク、風味が強く残っており、より一層美味さが引き立つのである。

なかでも、この「うず潮もめんどうふ」が絶品な理由は——おっと・・紹介が遅れたが、何を隠そうこのわたし、またの名を”とうふの守護神”と恐れられるほど、豆腐殊にもめん豆腐には目がない。とくに、固くてもっちりとしたテクスチャーが非常に好みで、味付けなどせずにパックからダイレクトに味わうことで、豆腐本来の存在感や偉大さまでをも堪能することができるのだ。

 

そんな豆腐の申し子だからこそ、久しぶりに口にしたこの奇跡の豆腐に若干の酸味と刺激を覚えたとしても、あえて気づかないフリをしなければならなかった。なぜなら、もしもこれがきっかけでうず潮もめんどうふを取りあげられてしまったら、次にありつけるのはいつになるのか分からない。待ちに待った日本一の豆腐を、腐敗菌ごときのせいで断念などさせられてたまるか!

というわけで、若干の疑念を抱きつつもわたしは豆腐を食べ続けた。大きなスプーンでホールのチーズケーキをすくうかのように、うず潮もめんどうふをすくっては食べ、またすくっては食べ、それはそれは濃厚でまろやかでやや酸味のある(ここが問題)最高の逸品を食べ尽くしたのである。

 

その直後、わたしの腸内細菌たちが臨戦態勢に入った。キュルキュルと腹の深部で轟く腸内細菌の雄叫び——そう、今こそがおまえたちの出番だ!!

やはり、あの酸っぱさとピリピリ感じる刺激は腐敗菌によるものだった模様。そして体内へと送り込まれた敵軍が、静かに待期していた我らが腸内細菌へ奇襲攻撃を仕掛けたため、眠れる獅子が目を覚まし応戦している・・といった感じだろう。

とはいえ、主であるわたしは正々堂々と戦ったわけで、その結果、十分な満足と達成感を得た。だからこそ、次はおまえたちの実力を示してほしい。ここであっさりと敵軍にやられるようでは、わたしの名が廃る。いや、むしろうず潮もめんどうふの名誉のためにも、腐敗菌どもをねじ伏せて勝ち鬨(かちどき)を上げてみよ!!!

 

こうしてわたしは・・いや、我が腸内細菌たちは見事に勝利を収めたのである。あぁ、それにしてもうず潮もめんどうふは美味かった。だからこそ、今度は購入したらすぐに胃袋へ送り込むことにしよう。

 

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