小松菜の茎

 

「動物なんてものは、エサを与えたらなんでも食べる」などと、ヒトよりも下に見るような舐めた考えを抱いてはならない。殊に体の大きな動物・・といってもウマやシカだが、彼らは食に対する意識が高いため、いくら有料かつ新鮮な野菜であっても、好みでなければ平気で「ペッ」と吐き出すのだ。

いや、むしろ吐き出すどころか口へ入れることすらしない。咀嚼をする以前に、気に入らなき部分をシレっと地面へと落とすテクニックを身に着けているのである。

 

 

とある地方の動物園で、地場産の新鮮な小松菜を購入したわたし。それは、生産者の名前が貼られた立派な野菜なのだが、用途としてはニンゲンの夕飯ではなく「動物のエサ」としてだった。

おそらく、最初はニンゲン用に陳列されていたものが売れ残ってしまったため、動物たちへと回されたのだろう(でなければ、わざわざ動物のために契約農家が立派な野菜を作っていることになり、さすがに採算が取れない)。

とはいえ、青々とした小松菜はしなびた感じもなければ傷んだ様子も見られない。このまま普通にわたしが食べても問題ないレベルの、上質な新鮮野菜である。むしろ、こんな上等品を動物にあげてしまっていいのだろうか——。

 

そんな疑問を抱きながらも、購入した小松菜を握りしめて動物たちの元へと向かったのである。

 

ちなみに、わたしの唯一無二の推しであるカピバラへのエサやりは不可のため、その時点でテンションは半分以下に落ち込んでいたが、小松菜を買ってしまった以上は誰かに与えなくてはならない・・というわけで、まずは立派なツノ(といっても、カットされたものが伸びている途中)が印象的なシカの元へと向かった。

「オスカ」という名の個体は、ぬらぬらと光る黒い鼻が目を引く可愛らしいニホンジカ。犬もそうだが、四つ足動物は鼻が湿っているのがデフォルトのため、艶やかな鼻先のオスカは調子もすこぶる良いのだろう。

そして、袋から取り出した新鮮な小松菜を与えたところ、金網の穴に細長い鼻を突っ込んでモクモクと食べ続けた——小松菜を突っ込まなくても、自ら鼻を突っ込めるって便利だな。

 

すると、左の方からなにやら熱い視線を感じるので振り向くと、そこには白と茶色のミックスなカラーリングのポニーが立っていた。「ミルク」という名のポニーは、「自分にも小松菜をよこせ!」と言わんばかりに鼻の穴をフガフガさせつつ、ジッとこちらを見ている——仕方ない、あいつにも与えてやろう。

 

シカのエリアからポニー舎へと移動したわたしは、少し大きめの小松菜をミルクの口元へ近づけてみた。すると、まるで強力な掃除機に吸い込まれるかのごとく一瞬で消えてしまった——そりゃそうだ、これだけ大きな口と歯そして舌を持っているのだから、ペロリと平らげて当然である。

ところが、その直後に異変は起きた。あまりに急いで小松菜を吸い込んだせいか、勢い余って茎の部分を地面へ落としてしまったのだ。にもかかわらず、次から次へと小松菜を要求してくるので、「コラコラ、まずは一株ぜんぶ食べてからにしなさい」と、ミルクをたしなめつつ食べ物の大切さを説諭し、落ちている小松菜の茎を拾うと改めて口元へと持っていった。

 

すると・・・まさかの摂食拒否!!

 

匂いを嗅ぐことはおろか、食べようかどうしようかの「迷い」を見せることもせず、シレっと鮮やかなシカトを決めこむミルク。

(要するに、これはわざと落としたということか)

とはいえ、一時的なミルクの気まぐれかもしれないと考えたわたしは、その後も茎を近づけたり新たな小松菜と一緒に与えてみたりしたのだが、落とした茎のみを見事に避けて、別の茎ならばちゃんと食べるではないか!!

 

ならばと、ミルクが拒否をする茎を持ったまま再びニホンジカのエリアへ戻り、申し訳ないがオスカへ与えてみた。すると——まさかの摂食拒否。

(え?この茎に毒でも入ってるのか!?)

他の株はペロッと平らげるくせに、この茎だけは確実に排除するという絶妙な徹底っぷり。これは、ただ単に「不味い」というだけなのだろうか、それとも何らかの理由があっての行動なのだろうか。真相を解き明かすには・・アイツしかいない。

 

ポニーもニホンジカも拒否をする、謎の小松菜の茎。だが、コイツらならば食べるんじゃないか——そんな白羽の矢が立ったのは、ニワトリだった。

不気味な笑みを浮かべたわたしは、そそくさとポニーの隣にあるニワトリ舎へと向かった。そこには、何も知らないニワトリたちがご機嫌な表情でウロウロしている。そう、ニワトリといえば不本意ながらも”お馬鹿”なレッテルを貼られた動物の代表である。

(ニワトリは三歩歩くと忘れる・・といわれるし、彼らならばこの茎を喜んで食べてくれるだろう)

とはいえ、もしも拒否されたらどうしようか。ニワトリでもダメならば、この茎には有毒な成分が混じっていると見て間違いない。だが、そんなことになればある意味事件じゃないか——。

 

そんなわたしの不安(と少しの期待)も虚しく、オスカとミルクが拒否をした小松菜の茎を、ニワトリは躊躇なくコッコッとつついて一瞬で平らげてしまった。

(要するに、ウマやシカと違ってニワトリはグルメではないってことか)

 

 

たかが動物とはいえ、グルメな舌を持ち合わせた贅沢者もいる・・という現実を学んだのであった。