(いよいよ奴が・・夏の野郎が忍び寄ってきたか)
昨日までとは異なる夏特有の圧力を感じたわたしは、毎年恒例の灼熱地獄が近づいてきたことに恐れ戦いた。まだ梅雨も始まっていないというのに、「夏」という単語を口にするのは気が早いと言われるかもしれないが、それでもこの強大な空気の圧迫感は明らかに夏である。
とくに、コンクリートとガラスでできた我が家に籠っていると、外気の影響を時間差でモロにくらうため、午前10時になると日の出から受け続けた太陽の熱が室内に充満し、息をするのが苦しくなるほどの熱気と圧力に見舞われる——これこそが、夏の象徴たる無言の圧なのだ。
そこでわたしは、とりあえず室内の風通しを良くするべくベランダと玄関を全開にした。我が家はここが直線となる配置のため、まずはこの二か所を開放して風の通り道を確保することで、室内の圧力を下げるというわけだ。
ちなみに、外は強風が吹き荒れているわけでもないのに、こうして空気の通り道を作るだけでビュウビュウと風が吹き抜けるから面白い。ベランダの入り口にぶら下げてあるブラインドなど、さっきから荒れ狂う風のせいで折れたりひっくり返ったり大変なことになっている。
それでも、室内の温度・・というか圧力は健在。こうなるとエアコンという文明の利器のチカラを借りるしかないのだが、5月のうちからそれはしたくない。いずれ、24時間フル稼働で頑張ってもらう時期が訪れるのだから、それまでの間はしばし休息期間として羽を休めてもらいたい。
とはいえ、こちらもなんとも言えない圧に耐えきれなくなり、とりあえず外へ避難することにした——え、めっちゃ涼しいじゃん!!!
なんと、室内よりも外のほうが圧倒的に涼しくて過ごしやすいではないか。日陰などむしろ肌寒いくらいで、異常なほどのムンムン感が充満している我が家のほうが、どう考えてもおかしい。
(これも、都心のコンクリート樽で暮らす下民の宿命ってやつか・・)
そんなわけで、室内よりも断然涼しいマンションの共有部分をウロウロした後、覚悟を決めて室内へと戻ったわたしは、とりあえずキッチンで「馬のエサ」を食べることにした。
「馬のエサ」とは、各種野菜を丸ごと耐熱ボウルに放り込み電子レンジで20分ほど加熱することで出来上がる料理のことで、当初ダイエットを目的として始めたのだが、何か月経っても体重は微動だにしないため、今は単に胃袋を膨らませるためだけに続けている習慣である。
そんなわけでエサが完成するまでの間、キッチンに立ち続けるのがデフォルトとなっているわたしは、時間つぶしにネットフリックスを開いた。
なぜリビングでくつろがないのかというと、腰痛持ちのわたしは座ることが苦手なため、リカバリーサンダルを履いた状態で立ったりウロウロしたりするほうが断然ラクなのだ。しかも、キッチンは玄関とベランダの途中に位置するため、ここが我が家でもっとも風通しのいい涼しい場所となる。
(さてと、何を見ようかな・・)
とりあえず配信中の春アニメを順番に流していたところ、あるときBL(ボーイズラブ)のアニメが始まった。
最近のBLは、淫靡なエロス路線ではなくコメディータッチで大衆受けしやすい作りの作品が増えてきた。それだけ、同性愛が一般的というか開放的な存在として認知されるようになったというわけか——。
そんなことを思いながらまぁまぁエロいシーンに差し掛かったとき、隣人が外出のためドアのカギを閉める音が聞こえた。そう、我が家は玄関が全開のため、外も中も音が筒抜けなのだ。
しかも運悪くエレベーターの目の前が我が家ということで、隣人がエレベーターに乗り込むまでの間、必然的に我が家の前で立たされることになる。それはすなわち、大音量で響き渡るBLのベッドシーンを、黙って聞かされることを意味するのである。
(き、気まずすぎる・・だが今、急に音量を下げたり別のアニメに変えたりすれば、それこそわざとらしいしこちらの心情を悟られてしまう。だったら堂々とBLの濡れ場を流し続けることで、「なにか問題でも?」という毅然とした態度を貫くほうがマシかもしれない。とはいえ、「こいつ独身でBL好きって、ヤバいんじゃね?」などと思われるのも癪だし、かといっていきなり挨拶して弁解するのもおかしな話——あぁ、どうするのが正解なんだ!?)
明らかに聞こえているであろう男性同士の喘ぎ声を、エレベーターが到着するまでの数十秒間、強制的に聞かされる隣人の後ろ姿をチラ見するわたし。
とはいえ、玄関を開放しなければ風の通り道ができないため、室内で圧死する可能性を考慮すればこうなることはやむを得ない。とにかく、タイミングが悪かったのだ——。
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こんなアクシデントに見舞われるのも、この時期ならではの風物詩なのである。











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