冷静に考えると非常にちっちゃなことで、考えるまでもなく「買えばいいじゃないか」と思うのだが、かといって二年に一度しか出番が来ないうえに、まだ現役の”先輩”がいるにもかかわらず新人を採用するのは、経営判断として難しいところがある——。
さっきから何を悩んでいるのかというと、発表会のドレス着用時に使用する「ヌーブラ」を、新たに買い直そうかどうしようか迷っているのだ。しかも、かれこれ一カ月近く迷っているわけで、もうそろそろ覚悟を決めないと本番に間に合わない時点まできてしまった。
ちなみに、なぜ迷っているのかというと、目の前にはちょうど二年前に購入したヌーブラ(正確には、偽物のヌーブラ)が横たわっており、前回の発表会で使用して以来一度も開封していない・・そう、たった一回しか使っていないのだから今回もそれを使えばいいわけだ。
しかしながら、このヌーブラには恐るべき性質がある。それは「気を抜くとポロっと落ちそうになる」という、もはや欠陥品であることを疑いたくなるほどの不安要素を内包しているのだ。
わたしは胸のボリュームが欲しいわけでも、紙幣を突っ込んでもらえるほどの谷間が欲しいわけでもなく、ただ単にドレス着用時にノーブラではあまりにアレだから・・という理由でヌーブラを着けるだけ。そのため、ポロっと落ちてしまったのでは元も子もない。
とはいえ、前回も結果として「ポロリ」はしていない。途中で何度か付け直したせいもあるが、確実にポロリをするとは限らない・・という不確定な状態ゆえに、購入ボタンをクリックすることをためらっているわけだ。
しかも、本物のヌーブラのパクリ商品はどれも安い。千円ちょっとで購入できるのだから、とりあえず買っておけばいいじゃないか——そう、使い捨てだと割り切って買えば、二年間も箪笥(たんす)の隅に寝かせて置く必要はないのだ。
かといって、傷一つない新品同様のヌーブラ(正確にはヌーブラのまがい物なので、シリコンブラと呼ぶべきだが)を使い捨てだと言い切るのは、貧乏人としては許し難い発言である。
では、今回も前回同様に偽ヌーブラを装着して、いつ落下するやもしれぬ不安に苛まれながら集中できない状態で本番を迎えるのか・・と言われれば、それだけは避けたい。なんせ、今回は動きの激しい曲を演奏するため、万が一弾いている途中で偽ヌーブラが外れて落下でもしたら、それこそ”事件”なわけで。
(二年に一度の晴れ舞台だ、新しいヌーブラを買い直そう!)
長考の末にそう決断したわたしは、さっそくAmazonで高評価(二千人以上の評価で、星4.4という優れもの)のヌーブラもどきをクリックした。
レビューを見ると「汗ばんでも落ちない」「しっかりとくっ付いている」「一日たっても剥がれなかった」などなど、理想的なコメントが残されている——よし、これで大丈夫だ。
そして「購入を確定する」ボタンをタップしよう——という寸前のところで、「そういえば、前回はどうやって偽ヌーブラを選んだのだろう」と、ふと当時の購入過程が気になったわたしは、前回・・すなわち2024年の購入履歴をたどってみた。
すると、まさかの同じ商品を購入していたことが発覚したではないか。
(あっぶねぇーー!!同じポロリを買うところだった!!)
まぁ、新しい商品のほうが粘着力も強いしマシな部分はあるだろうが、とはいえ前回同様「なんか落ちそうな気がする・・」という不安を抱えながら過ごす未来が確定するわけで、なにも同じ轍を踏む必要はない。
しかも、同封されている説明書も二年前と全く同じであるため、この偽ヌーブラが改良された様子は微塵もうかがえない。要するに、これを買っても不安は払拭できないわけだ。
ならばと「本物のヌーブラを購入する」という勇気が出ないのも事実。なんせ、二年に一度しか出番はないわけで、シリコン素材ゆえに二年も放置すればそれなりに劣化は免れない。とすると、結果的に使い捨て同様のポジションとなるためコスパは最悪。
しかしながら、おそらく本物ならば「ポロっと落ちそう」という感覚はないのだろう。なんせ、偽物の6倍近い値段で販売しているのだから、それがいとも簡単にポロリするようでは詐欺である。
——そんなことは分かっている。頭ではちゃんと理解できているのだが、いかんせん金額が高いことがネックとなり、本物のヌーブラのボタンをタップすることができないのだ。
あぁ、これこそが貧乏人のサガというものなのだ。
*
こうして、いつの間にか夜は更け朝を迎えてしまったわたしは、前回購入した偽ヌーブラとならぶ高評価である、別の偽ヌーブラの購入ボタンをタップしたのであった。
(これもいわゆる「同じ轍を踏む」ってやつなんじゃぁ・・・)











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