全盲の父に贈った、殻が青い卵

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6月の第三日曜日は父の日——ということで、我が父へプレゼントを贈ったわたし。

「父の日」といえば黄色い花を贈るのが定番のようだが、目が見えない父に対して何色の花を贈ろうが感動は薄いわけで、どうせなら手で触れたり耳で聞いたり、舌で味わったりできるもののほうがウェットな喜びを得られる・・と考えたわたしは、先日、生まれて初めて食べた”青い卵”を、父にも味わってもらうことにした。

(・・ていうか、青いかどうか父には分からないじゃん)

まぁ、大切なのは気持ちである。いかんせん”青い卵”は、卵の殻が青いだけでなく味も非常に美味かった。ちなみにわたしは、「青いゆで卵」を食べさせてもらったのだが、白身の弾力が半端なく強力で、卵の白身というよりかまぼこに近い感触だったことに感動を覚えた。

そんなわけで、青い卵・・もとい”美味い卵”を父の日のプレゼントに選んだのであった。

 

この青い卵は、アクアファーム秩父で作られた「翡翠(ひすい)」という名の鶏卵。まるで宝石にように蒼く煌く「翡翠」——という謳い文句で紹介されるほど、殻がうっすらと青みがかっているのだ。

ではなぜ青い卵になるのか・・というと、南米チリ原産の希少な鶏である「アローカナ(Araucana)」の卵だからだ。このアローカナは、青や緑がかった殻の卵を産むことで知られており、幸せの青い鳥にちなんで、”幸せを呼ぶ青い卵”として注目されている。

とはいえ、食欲をそそるかどうか・・の観点からすると、「青」は食欲を抑制する色とされており、腐敗や毒のサインと結びつきやすい。そんなことからも、自然界にあまり存在しない青色の食材に対して、人間は警戒心を抱く傾向にあると言われている。

 

言われてみると、たしかに「ブルー系で美味そうな料理」といわれても、人工的に作られたラムネやソーダのかき氷くらいしか思い浮かばない。ブルーベリーやナスも青に分類されがちだが、厳密には紫に近い青であり真っ青ではない。

そんなわけで、お世辞にも食欲をそそるカラーリングとはいえない翡翠卵ではあるが、その珍しさは群を抜いている。さらに、通常の白い卵と比べると美しいだけでなく上品な雰囲気をまとっており、贈り物としてはうってつけなわけだ。

 

「どうやら殻が青いらしいが・・味はとくに変わりないな」

受話器越しの父は、もっともらしい感想を述べた。そりゃそうだ・・殻が青いからといって、卵の味が青っぽいわけじゃない。むしろ、青っぽい味ってどんな味だ——。

そして、(色は分からないが)黄身が大きくてしっかりしておりコクがあること、さらに、卵白にあるヒモのようなもの・・いわゆるカラザ(chalaza)が、通常の卵よりも丈夫であるということを、感想として伝えてくれた。

 

黄身やカラザがしっかりしているということは、すなわち卵が新鮮であることを意味するが、そういえば、アクアファーム秩父の卵の中には「黄身をつまむことができる」種類もある。

彩美卵という名前の卵は、なんと、指先で黄身を掴んでも崩れたり流れ落ちたりしないのだ。その理由は、「栄養が充分に行き届き、余分な水分がなく(卵黄の)膜がしっかりしているから」とのことだが、これらに加えて生卵にありがちな「生臭さ」が一切感じられず、黄身には甘みや香ばしさが宿っているのも特徴。

もちろん、餌や飼育環境に特別な配慮があるのは当然のことだが、全盲の父にとってはそのような情報よりも、口内で感じる弾力や舌触りにを介して普通の卵と特別な卵の違いを判別している様子。

 

目が見えている我々にとっては、むしろ殻が青かったり黄身がオレンジ色だったりすることに意識が向いてしまい、その先の感覚については疎かになりがち。だが、目を閉じてゆっくりと咀嚼を繰り返してみると、視覚のみでは知り得ない感触が舌を通じて脳へと伝わるのが分かる。

(なんていうか、立体的な味覚・・って感じかなぁ)

 

目が見えない父に「青い卵」という珍しい贈り物をしたわたしだが、見た目以上に味や咀嚼の感想をもらったことで、娘として改めて反省するのであった。

次回はもう少し、視覚以外の感覚でプレゼントを選ぶとしよう——。

 

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