かなり久しぶりに車を運転したのだが、なんとも理不尽な状況に直面したわたしは、心の底からこう思った。
(この十字路を、どうやって曲がれっていうんだよ・・・)
それは、どう頑張っても車一台分しかない道幅の十字路にもかかわらず、Googleマップのナビに「左へ曲がれ」と指示された時のことだった——。
わたしが乗っている車が、もしもコンパクトな軽自動車だったならば曲がれたのかも・・いや、さすがに一度で曲がり切るのは難しいか。そのくらい、激狭な一方通行の道を「直角に左折しろ」と迫られているわけで、これはどう考えても物理的に無理である。
しかも交差する道はいずれも一歩通行のため、たとえば左折せずにそのまま前進してから、右にバックしつつ頭を左へ向ける・・というのは、わずかな距離であったとしても逆走扱いになるため、道路交通法違反となる。実際には、警察官の目の前でバックしない限りは取締りを受けることはないだろうが、それでも「違反か否か」と問われれば違反なわけで——。
無論、こんな狭い道だと分かっていたら、ここへの侵入は避けていた。だが渋谷区の路地裏は、似たような細さの小道が張り巡らされており、ここを避けたとしても次の通りもやはり激狭なのだ。
ていうか、こんな展開が待っているのならば、通りの入り口に「コンパクトカーとバイク以外、左折できません!」とでも示しておいてもらいたかった。3ナンバーはおろか、5ナンバーでさえも厳しい左折の責任を、いったい誰が取るというのか。
(にしても、逆走せずにどうやって曲がればいいんだよ・・)
たとえばこれが、道路沿いに建つ家屋に外壁がなかったり、フェンスのない駐車場だったりすれば話は別である。ところが最悪なことに、立派なブロック塀で囲まれた住宅街が並んでいるため、内輪差を稼ぐ余裕すらないのだ。
(いやいや・・何十回切り返したところで、永遠に左折できないだろう)
目的地はすぐそこだというのに、このままではいつになっても到着できない・・という八方塞がりの状況に、半ばパニックになるわたし。
(やむを得ない、直進してから右へバックして頭の向きを変えよう)
そもそも右へバックすることすら怪しい細さだが、こうなったらやるしかない——。
そう、この期に及んで”逆走”だの”道交法違反”だのくだらない正論を述べている場合じゃない。なぜなら、今もしも背後から車が来たりしたら、それこそ一巻の終わりだからだ。車を降りて事情を説明し、バックで方向転換をするまで待っていてもらわなければならず、そうこうするうちにまた別の車が侵入してきた日には、もう死んで侘びるしかない——。
しかも、気にするべきは背後だけではない。左折しようとしている一方通行の道に走行車がいないとは限らないわけで、わたしがモタモタと切り返しているところへ突如別の車が現れでもしたら・・想像しただけで半狂乱である。
ちなみに、気にするべきは後続車のみならず、道路ギリギリまで設置されている住宅の外壁や、道路にはみ出しているゴミ箱など、切り返すにあたりメチャクチャ気になる障害物がてんこ盛り。
加えて、乗っている車がよりによって3ナンバーのデカい車体・・とくれば、もはや悪夢以外の何物でもない。
(あぁ、なぜこんな全長のある車で激狭な小道を直角に曲がらなければならないんだ。しかも、なぜ角までビッシリと妨害されているんだ・・)
死角の確認をしたくても、カーブミラーもなければアラウンドビューモニターも付いていないという”詰み”状態。かつ、なんとか正気を保とうと気持ちを奮い起こすも、それに反するかのように薄れていく意識の中で、わたしは決死の方向転換を行った。
今ならもれなく、通行人を轢き殺す自信がある。そのくらい、目的地の方向へ車の頭を向けることしか考えられなかった——。
*
今こうして当時の状況を振り返っているということは、通行人を轢き殺すことなく無事に方向転換を済ませた・・ということである。とはいえ、都心の路地裏など当たり前だが車で走る場所ではない。あんなところで立ち往生したら、それこそ事故以上の迷惑をかけることとなるわけで。
(それにしても、あの道を3ナンバーの車で道路交通法違反に問われることなく左折することなど、可能なのだろうか・・・)
そんな神業があるのかどうか分からないが、いずれにせよ、車の運転が上手いヒトは尊敬に値するのである。
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