「・・・で?」

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昨夜は帰宅が遅かったせいもあり、気がつけば朝になるまで仕事・・というかパソコンで作業をしていた。そして今日は午前から予定が入っていたため、ほぼ完徹からの一日を精力的に過ごしたわたし。

しかしながら、どの予定も充実しており疲れることも眠くなることもなく、あっという間に夜を迎えたのである。

 

——という前置きを入れさせてもらった上で、わたしは今日もまた柔術の練習に遅刻をした・・いや、結果的に遅刻ではない。むしろ、最後のクラスが始まる前に準備万端で待機していたのだから、5分前行動を完璧に実践したといえる。

まぁ、実際のところは「2コマ目のクラスには間に合わなかったが、3コマ目には遅刻しなかった」というのが正確な表現。いかんせん、遅刻常習犯のわたしが「今日もまた遅刻!」というのはさすがにばつが悪いので、2コマ目の遅刻よりも”3コマ目の定刻”を選択したわけだ。

 

冒頭でも述べたとおり、今日は予定が満載だったので分刻みでスケジュールを組んでいた。もちろん、ジムへ到着する時刻も余裕をもって設定していたので、どう考えても遅刻などするはずがなかった。それなのになぜ、よりによって遅刻をしてしまったのか——。

そこには、不可抗力かつありきたりな「ミス」が起きたのである。

 

 

予定よりも早く最寄り駅に着いたわたしは、いつもの如くスタバで時間調整をすることにした。ちょっとした残務処理もあったので、一人用のソファに腰かけるとBBCのポッドキャストを聞きながら、パソコンを開いてカチャカチャと”事務作業ドカタ”に没頭した。

ふとあたりを見渡すと、わたしの正面には若くて可愛らしい女子が、そしてその隣には彼氏と思われる男性が座っている。だがなぜか二人はまったく会話をしないのだ。それどころか、彼氏は腕を組みながら目を閉じている——え、寝てるの?!

しかし彼女は、そんな彼氏のほうへ両膝を向けながらジッと座っているのだ。スマホをいじりながら時間つぶし・・ならばまだ分かるが、何もせずにただただ体半分を彼氏のほうへ向けたまま、罰ゲームに耐えるかのように微動だにせず座っているのである。

 

(この二人は、これでいいのだろうか・・)

完全に余計なお世話ではあるが、チラチラと観察を続けたわたしは二人の関係性を勝手に心配してしまった。なぜなら、30分経っても彼氏はずっと寝ているし彼女は虚ろな目で遠くを見つめているし、本当にこれで大丈夫なのか?と気が気ではない。

だって、なぜわざわざ二人でスタバへ来たのに、彼氏は寝ていて彼女はスマホもいじらずに呆然としているのか・・正直、理解に苦しむではないか。このままずっと会話もせずに、この二人はどうやってコミュニケーションを図るのだろうか。

 

赤の他人が余計なことを勘ぐったところで、二人のことは二人にしか分からない。それでも、目の前で繰り広げられる”謎の沈黙”が気になって作業に集中できない——いや、集中するような作業ではないからこそ、目の前の違和感に吸い込まれてしまうのだ。

(なんでなんだろう・・ていうか、これじゃ楽しくないだろうに)

考えたところで答えなど出るはずもない、下世話な疑問が脳内を渦巻く。そう、どうでもいいからこそ気になってしまうのだ——。そんな悶々とする状況下で、突然、手のひらに刺激(正確には振動)が走った。ビクッとしながら左手を見ると、手のひらに載せていたスマホにメッセージが——。

 

(・・・え。15時半からのクラスに出ようとスタンバってたのに、なぜ15時33分なんだ??)

 

 

——おわかりいただけただろうか。

見ず知らずのカップルの要らぬ心配をしながら、いつの間にか睡魔に襲われたわたしは意識を失ったのだ。そして気づけば30分が経過しており、「今日こそは遅刻をするまい」という強い意思と万全の状態で待機をしていたにもかかわらず、不可抗力的に遅刻が確定してしまったのである。

(今からノコノコと顔を出せば、当たり前に遅刻をしたと思われる。それだけは避けなければ・・)

こうして、最後のクラスに間に合うように改めて時間調整——抹茶マカロンを食べながら——をしつつ、無事5分前に到着を果たしたのであった。

 

「・・・で?」

 

llustrated by おおとりのぞみ

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