異種"世界チャンプ"が集う、武蔵小山の夜。

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今日はたまたま、世界チャンピオンが集う空間に身を置くこととなった。

一人はつい先日、ローマで開かれたピッツァの世界大会で、ピッツァフリッタ(生地に具材を包み油で揚げたピッツァ)部門にて優勝を果たした"ピッツァの世界チャンピオン"。そしてもう一人は、現役は引退したものの日本のピストル射撃を牽引し、世界選手権やワールドカップ、さらにワールドカップファイナルでも優勝を果たした"ピストル射撃の世界チャンピオン"。ちなみに、彼らと比べるとレベルも規模もまったく劣るが、メダルだけは立派なものを所持しているわたしが、"柔術の(ワールドマスター選手権茶帯無差別級)チャンピオン"を名乗ってもよいならば、武蔵小山のピッツェリアに三人の世界チャンピオンが集うという、しかも、いずれも分野の異なる珍しい偶然が実現したのである。

ピッツァにピストルにブラジリアン柔術——異種混合戦ではあるが、なんとも面白い組み合わせに話も弾むのであった。

 

ちなみに、わたしはマスターカテゴリーでの優勝のため、ある種のハンデをもらっている。やはりチャンピオンを名乗るならば、年齢やらなんやらの垣根を取っ払った舞台で頂点に立つ必要があるので、わたしはなんちゃってチャンピオンだ。

だが、ピッツァもピストルも正真正銘の世界チャンピオンであり、彼らの話やこれまでの生きざまを見ていると、まぎれもなく世界一であることが伝わってくる。とくに、海外勢が優位な競技や種目において日本人が優勝する・・というのは、言葉にする以上に相当なハードルの高さとなる。そんな障壁を乗り越えて頂点に立ったのだから、これはやはり「凄い」としか言いようがないわけで。

 

そういえば、ピッツァの世界大会で準優勝に輝いた友人がいるのだが、かつてこんなことを教えてくれた。

「イタリアでの大会は完全にアウェーで、とくに日本人は冷遇されていた。それで、大会が終わってから『本当はキミが一番だったよ』って言われたときには、あぁこれが世界なんだ・・と思い知らされたね」

今夏のパリ五輪でも、審判の身内びいきが取り沙汰されたが、どちらかというと海外ではそれが当たり前で、むしろそこも含めて挑まなければならない。わたしの個人的な感覚であはるが、柔術の試合では「同点ならば負ける」と思っているので、何が何でも相手より1点多くポイントを稼がなければならず、明らかな勝ちを示せなければ負け・・と、自分自身に言い聞かせている。

 

そして今回、ピッツァフリッタ部門で優勝を決めたラ・トリプレッタ太田賢二君、じつは12年前に同じ大会で準優勝しているのだ。その当時も、本人的にはかなりの手ごたえを感じていたが、結果は二位。そこから自身のピッツェリアを構えて10年が経過した今年、改めてチャレンジャーとなる覚悟を決めた彼は、12年越しに雪辱を果たしたのである。

「最終的には、(ピッツァフリッタを)焼いてきた枚数による経験値の差だったのかもしれない」

そう呟く太田君だが、世界のトップといわれる競技者は誰だってセンスと才能に恵まれており、その上でさらに努力を続けた一握りだけが頂点に立つことを許されるわけで、おまけにイタリア発祥の料理で日本人が最高位を獲得するなど、並大抵の努力では達成できない。

それでも、ピッツァフリッタを誇りに思い大切にしてきた彼だからこそ、満を持しての"優勝"という称号を与えられたのだろう。

 

願わくばこれからは、ピッツァフリッタの日本人チャンピオンとして、武蔵小山の地から多くの日本人に「本物の味」を伝えてやってほしい。なんせ日本において、ナポリのソウルフードを堪能できるチャンスなどそうあるものではないので、ここは是が非でも味わっておくべきだからだ。

(ちょっと大袈裟かもしれないが、日本で寿司の世界大会を開催したら、イタリア人が優勝してしまう感じなのだろうか——あぁ、それはたしかに恐ろしい!)

 

 

ピッツァの世界チャンピオンとなった太田君は、喜びを放つと同時に凛とした空気をまとっていた。

彼にとってのこの12年は決して無駄ではなかったし、今日まで積み上げてきた人生のすべてが、世界一という地位を与えてくれたのは間違いない。そして環境や年齢、境遇、金銭面など言い訳はいくらでも作れるが、それらもひっくるめて世界の大舞台で結果を残した太田君は、友人として「誇らしい」の一言に尽きるのだ。

 

これからもわれわれ日本人に、本場の美味しいピッツァを食べさせてやってほしい。兎にも角にも優勝おめでとう、チャンプ!

 

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