カピバラ観察記/とんとんの丘(宮城県)

 

カピバラのためならば労を惜しまず行動するわたしは、ついに東北地方まで足を運んだ。

今までの最北園といえば、栃木県にある那須どうぶつ王国だったが、今回はさらに北となる宮城県柴田郡の「とんとんの丘(わんぱくの森)」へと向かったのである。

 

そもそも、「とんとんの丘」という抜群のネーミングセンスにやられたわたしは、仮にカピバラがいなくてもいつかは訪れたであろうこの場所について、一言で表すならば「広大な敷地面積を誇るちょっとした山と盆地」だった。

とんとんの丘の中には”わんぱくの森”と名付けられた動物園があったり、”もちぶた館”という地場産の作物や豚肉を販売・バーベキューで食べられる施設があったり、はたまた”おおがわら天然温泉いい湯”という温泉施設があったりと、大自然の中で一日を満喫できるめちゃくちゃ楽しい場所なのである。

 

いかんせん、動物エリアを通り過ぎた先には天然の竹林があり、道なき道というか未舗装の山道を進むと「たけのこ取るな!」「警察〇〇(警察署の電話番号)」など、勝手にたけのこを掘り起こして持ち帰る事件の被害に遭っている様子がうかがえる——たしかに、そこかしこにたけのこが顔を出しているじゃないか。

しかも、「散歩コース」と聞くと舗装された歩きやすい遊歩道を想像するだろうが、とんとんの丘は違う。過酷かつ未開拓の大自然が与える「けもの道」——しかも、急こう配のアップダウンを踏破した者だけが全周できる作りのため、パンプスやビーチサンダル(わたし)でキャッキャウフフとはしゃぐような痴れ者は、自動的に弾かれる仕組みとなっているのだ。

とはいえ、わたしはビーチサンダルで山道を駆け下りたり、ツルツルと滑りながらも竹林を進んだり、素足を土まみれにしつつ順路の標識すらない山林を踏み荒らしたのである。エヘン。

 

というわけで、とんとんの丘でのんびり暮らすカピバラ2頭と対面したわたしは、大宮公園小動物園のピースを思い出した。

カピバラの個体がピースに似ている・・というわけではなく、金網越しに尻や背中を押し付けてくる様子——「仕方ないな、撫でさせてやるよ」という無言のファンサービスっぷりが、今は亡きピースを彷彿とさせたのだ。

(とはいえ、とんとんの丘ではカピバラに触れたりエサをあげたりすることは禁止されているため、金網から指を突っ込んで撫でたり、他の動物用の小松菜を差し込んだりしてはならないので要注意)

 

ちなみに、カピバラとのふれあいが出来ないとなると、「せっかく来たのに、エサをあげたり触ったりできなくて残念」と思われがちだが、わたしは違う。カピバラに触れずとも、その行動を観察したり昼寝姿をじっと見守ったりするだけで、筆舌に尽くしがたい有意義で幸せな時間を満喫できるからだ。

ヒトはなぜか動物に触れたがる。無論、可能ならば触れるに越したことはない(動物側の迷惑やストレスを度外視すれば)が、物理的な体験を得ることだけが動物園の楽しみではないし、むしろ自然に生きる姿を・・寝転がった時に見える内もものピンク色とか、あくびをした際にチラ見する舌の形とか、金網越しに自分を見ている人間どもを視界の隅っこで監視する様子とか、そういった本能的な行動を己の目で直視することのほうが、よっぽど価値があるし興味も沸くのである。

 

そんなわたしは、金網の前で仁王立ちとヤンキー座りを繰り返し、何時間もその場に佇んだ。すると、ファンサ精神旺盛な一頭のカピバラ(モリージョがあったので、息子のチップ君だろう)が、池でのスイミングを終えるとわたしの目の前までやってきて、ドスンと横になりこちらへ背中を押し付けてきた——あぁ、ピースもこうやって撫でさせてくれたよな。

そして、決してやってはいけないことだが、金網の隙間から溢れ出るかたい毛に触れながら、まだ弾力を保っている腰回りの皮膚というか脂肪と筋肉をつまんでみた。

(あ、ボワった)

子どもや無知な若者が真似をするといけないので、ごくわずかにこっそりと指を動かし、チップの背中に圧力を伝えるわたし——繰り返しになるが、金網から手指を突っ込む行為は禁止されているため、絶対にやってはダメである。

 

何食わぬ顔で「わざわざ東京から来たんか?しゃーないから触らせてやるわ、ホレ」と言わんばかりの、堂々とした背中の押し付けからのボワッた途端にバタンと倒れる・・という、シナリオ通りの見事な役者っぷりには、思わず唸ってしまった。

そして、もう一頭のカピバラ——チップの母親であるヒナちゃんも、いつしか金網越しに背中を押し付けてきて、こちらも人目を盗んでこちょこちょとつまんでやったところ・・ボワッた。

 

 

カピバラは大きくてじょうぶな前歯を持っている。世界最大のげっ歯類なのだから、その象徴たる立派な前歯は当然のアイテムではあるが、そこへ細長いもの・・たとえばスティック野菜や人間の指などを見せれば、本能的に齧りつくわけだ。

そんなことからも、金網から異物を差し込むことを禁止しているのであり、このルールを破ってはならない。よって、とんとんの丘のカピバラ舎を訪れた際には、触ったりエサをあげたりせず、外からジッと観察することでカピバラを満喫してもらいたい。

 

・・ということを、口酸っぱく伝えるルール違反を犯した無法者なのである。