アメリカ人の友人・トムの家でランチをご馳走になったわたしは、美味いもので満たされた腹をさすりながら食後の一服を満喫していたところ、トムが飼い犬たちを呼んでいるのが聞こえてきた。
アメリカ人が話す英語は、彼らにとっての母国語なわけで流暢かつ発音もこなれている。
それは、われわれ日本人が「日本語、上手いね」と言われるのと同じくらい当たり前のことではあるが、日本において流暢な英語を聞く機会の少ないわたしにとっては、まるで美しい音楽を聴いているかのような気分になれるのだ。
そんなBGMに身を委ねていたところ、さっきから呼びかけている一匹の犬がなかなか現れず、何度も何度も呼んでいることに気がついた。
「Candy, Candy come‼」
キャンディーという名前の犬を呼んでいるのだが、何度呼んでも姿を現さない。いい加減にしびれを切らしたトムが、語気を強めて改めて呼びかけたその時——。
わたしと同様にランチに招かれた一人の男が、ビクッとなりながらトムのほうを見つめたのだ。というか、思わずわたしもその男とトムを交互に見比べてしまったのだが、トムは二階を見上げながら相変わらず「キャンディー」を呼んでいる。
一体なにが起きたのかというと、トムが発する「キャンディー」の発音が良すぎて、我々には「ケンディー」と聞こえた——つまり「ケンディー、ケンディー カム!!」と大声で呼んだその声が、ランチに招かれたもう一人の男の名前に聞こえたのだ。彼の名は・・ケンジ。
そう、われわれ日本人には「ケンジー、ケンジー カム!!」と聞こえていたのだ。
ベランダにいたケンジは、室内から大声で自分の名前を呼ばれたことで、ビクッとなった。しかも、トムから「来い!!」と命令されたわけで、キョトンとした顔で室内を覗いている。
ちなみに、わたしも同じだった。「ケンジ、おいで!」と妙に親し気にトムが声をかけてきたので、若干の違和感を覚えたものの「ケンジに何かくれるのかな?」と、トムの方を見たのである。
だが、トムの視線はベランダではなく二階へ向けられている。それを見たわたしは気がついた——あぁ、ケンジーではなくケンディー(Candy)だったのか、と。
それにしても、一度そう聞こえてしまうと以後何度聞いても「ケンジー」にしか聞こえないから笑ってしまう。
そして、なかなか一階へ降りてこないキャンディーに、我慢強く声をかけ続けるアメリカ人のトムが、われわれ日本人がなぜ面白がっているのかが理解できない・・というのも、これまた何というか興味深い「すれ違い」である。
加えて、渋々登場したキャンディーが、我々に謎に笑われてキョトンとしている・・というのも、なんとも愛らしくて微笑ましい。
とにかく、普通ならば「キャンディー」と「ケンジ」を間違えるはずなどないのだが、ネイティブの発音にかかれば「ケンディー」と「ケンジー」なわけで、そりゃ聞き間違えるわ——!!
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その後も、キャンディーは頻繁にトムに呼ばれるのだが、その都度ケンジーがキョロキョロと挙動不審になる姿を、面白おかしく観察するわたしなのであった。










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