超満腹

 

「半分だけでいいから、食べない?」

もうすでに満腹ではあるが、友人の懇願を断ることができなかったわたしは、皿に乗せられたうなぎの蒲焼を呆然と眺めた。

 

われわれは今、期間限定で開催されている「鰻の食べ放題」を満喫し、いよいよ制限時間一杯・・というところにいる。だが、最後に駆け込みで追加注文したうなぎの蒲焼について、もはや誰も胃袋に収めることができなくなっていた。

これが食べ放題でなければ、「店には申し訳ないけど、残すしかないよ」となるが、食べ放題の舞台で注文をした以上、責任をもって完食するのがルールでありマナーである。おまけに、「注文した料理を残した場合、100gにつき500円いただきます」との注意書きが記されており、何が何でも食べ切らなければならない状況へと追い込まれたのだ。

 

(仕方ない・・半分も厳しいが、とりあえず少しだけ手を付けるか)

テカテカ光るタレが美しい蒲焼へと箸を伸ばすわたしは、大きく深呼吸をするとまずはひと口うなぎを胃袋へと送り込んだ。念のため、うなぎは不味くない。むしろ、食べ放題とは思えないほどの美味さである。とはいえ、もうこれ以上は・・。

 

だが、二人から熱い視線を向けられているわたしは、さすがにここで箸を止めるわけにはいかない。

ちなみに、うなぎを差し出してきた友人は残りの半分すらも食べる気はないだろう——そう思わせるくらい、身を乗り出してわたしの咀嚼を眺める姿は、もはや応援しているようにしか見えなかった。

 

謎の緊張感が漂う微妙な静寂に耐えきれず、わたしは隣に座る友人と会話を始めた。

正直なところ、どんな会話をしたのか覚えていない。ただ、必死にしゃべって少しでもカロリーを消費しようと、途切れることなく会話が続いていたのは覚えている。そんなわたしの魂胆を知ってか知らずか、隣の友人は熱心に話を聞いたり返事をしたりしてくれたのである。

 

その結果、単純なわたしは「真剣な表情で会話に応じてくれる隣の友人」と、「その様子を興味深く見守る正面の友人」と、二人がわたしのトークに夢中になっていることに上機嫌となった。

どうやっても思い出せない程度のかなりどうでもいい内容だったはずだが、それでも目を輝かせて聞き入る隣の友人の顔を鮮明に覚えているし、正面に座る友人もワクワクする少年のような表情でわたしのトークに釘付けになっていた。

(そんなにも面白い話・・してるのかな、わたし。まさかの話し上手?!)

 

そうこうすうるちに、気づけばうなぎが「あとひと口」というところまで減っていた。

「あっ!!ごめん、ほとんど食べちゃった!!」

最後の一かけらを口へ運びかけたわたしは、慌てて皿へ戻すと正面の友人に謝罪をした。するとその瞬間、友人らが同時に悲鳴のような叫び声をあげたのだ。

「あああーーーっ!!!なんで止めちゃうの、せっかくいい調子で進んでたのに!!!」

 

要するに彼らは、わたしのトークに聞き入っていたのではなく、わたしが調子よくうなぎを処理していること気づき、会話を盛り上げることでさらに乗せようとしていたのだ。

上機嫌で気持ちよくしゃべり続けるわたしは、しゃべればしゃべるほどエンジンがかかり箸の動きもスムーズになる——その結果、うなぎがどんどん消えていく・・という、まさかの相乗効果が起きていたわけだ。

 

というわけで、ふと我に返ったわたしはもうすでに超満腹であることに気が付いたのだが、今さら引くこともできず最後のひとかけらを口へ放り込んだのである。