ジャストサイズの解釈の違い

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DIESEL(ディーゼル)でジーパンを買うなんて、何年ぶりだろう。少なくともここ5年は店舗へすら訪れていないため、7~8年ぶりだろうか。金欠と下半身の太さも相まってファッションに疎くなる中、ユニクロ頼みではさすがにモテないと気づいた私は、青山のディーゼルへ向かった。

 

アパレルショップの入り口をくぐる瞬間というのは、いつも後ろめたさが襲ってくる。ショーウインドウに立つマネキンのスタイルは私のフォルムとかけ離れており、野菜で例えるならばジャガイモとキュウリくらいの違いがある。

それでもここにはメンズ用のパンツも売られているわけで、最悪そちらへ逃げればいい。レディースがダメでも尻尾を巻いて逃げ帰る必要はないのだ――。

そう言い聞かせながら、若い女性店員に迎え入れられる私。ほっといてほしい気持ちと同時に、どこに何があるのかキョロキョロするのも恥ずかしいので、それとなく慣れた感じで左右の視野を目一杯使ってジーパンを探した。

 

ブツは一番奥に陳列されていた。かなり長い期間訪れていなかったとはいえ、ディーゼルっぽさは健在。嬉しいことに、私が求めるテイストのジーパンがキレイに畳まれて並んでいる。しかしウエストの位置が高かったり、裾が広がっていたり、私がイメージするローライズのスキニータイプが見つからない。目の前に飾られているマネキンの履くジーパンが理想だが、その下に並ぶのは別のデニムだったりする。

「よろしければお手伝いしましょうか?」

見るに見かねた女性店員がそっと近づく。観念した私はおねえちゃんと会話をしながら、いくつかのスキニーデニムを見繕ってもらった。だが問題はサイズだ。私の下半身はいびつな形状をしているため、ウエストで合わせれば太ももで止まり、ヒップで合わせればとんでもない長さの丈になる。

「大き目で試してみようかな」

それとなく、見た目以上のサイズを要求する。私の下半身をチラッと確認したおねえちゃんは、ジーパンが重ねてある引き出しの前でしばらく考えたあげく、26インチを手にして戻って来た。

「かなりストレッチが効いているので、履きにくいと思いますが・・・」

ジーパンがウエストまで到達しなかった時のエクスキューズを添えて、一本のデニムを手渡される。――パンツが入らないことには慣れているから、気を使わなくても大丈夫。そんなことで傷つくような年頃は、とうの昔に終わっているのだから。

そう心の中で呟きながら、私は試着室へと消えた。

 

第一関門であるふくらはぎを通過する際、一抹の不安を覚えるも、このストレッチ具合からするとかなり上まで履けると踏んだ。ストレッチデニムのいいところは、とにかく引っ張れば伸びること。商品だとかそんなことは後回しで、今この瞬間にズボンのジップが閉まればそれだけでいい。

第二関門であるふとももで、予想通り渋滞した。――落ち着け、軽くジャンプしながら少しずつ引き上げればいい。長年の勘と経験から、時間をかけて少しずつ引き上げることに成功。この時点で上半身は汗でびっしょり濡れていた。

そして最大の難関である尻。ここさえクリアすれば私の勝ちだ。さらに今回はイケる気がする、イケる気しかしない!試着室の外でおねえちゃんがウロつく気配を感じる。勢いで尻を覆ってしまおう、あとは全力で引っ張ってフロントボタンを留めれば、この戦いも終わる。

 

小刻みにジャンプを繰り返しながら、エベレスト級の尻をデニムで少しずつ隠していく。山頂に到達した時点で下山は五分五分だと感じる。とはいえ登頂成功したわけで、そこは素直に喜ばなければならない。髪の毛の間から汗が滴る。落ち着け、大丈夫だ――。

試着室に入ってから5分が経過。汗だくの私はジーパンのフロントボタンを留めることに成功した。ボタンホールにボタンを押し込む作業で右手親指の爪を負傷したが、そんなことはどうでもいい。残すはジップを上げるだけ。

しかしここがある意味最難関だった。ジップを力づくで上げれば閉まる気がするが、最悪、破壊の危険性がないともいえない。未購入のジーパンを壊したら、やはり強制的に買わなければならないだろう。とはいえ、もう少し私の下半身になじんでくれればジップもしっかり上がるはず。だが今はその時間がない――。

 

そこで私は奥の手を使った。トレーナーの裾を引き下げ、フロント部分が見えないようにしながら試着室のドアを開けた。待ち構えていたおねえちゃんと目が合う。彼女は右手に、27インチのジーパンを抱えていた。

 

――勝った!!

 

 

あのヒトが試着室に消えてから5分が過ぎた。さっきからギシギシと足音が聞こえるけど、あれは絶対に無理して履こうとしている証拠だ。

お客さんてなぜか見栄っ張りだから、こちらはサイズ選びに苦労する。明らかに小さいサイズを渡すのはかわいそうなので、こちらから見てそこそこキツイくらいを渡すように研修で教わった。アタシはその通り、あのヒトにはややキツイであろうサイズを渡してやった。ちゃんと「これはキツイから無理しないで」ということも付け加えたから、履けなくても恥ずかしくはないのよ。それなのに今、彼女は絶対に無理矢理履こうとしている。

 

これでもしジーパンが破れたりしたらどうするのかしら。あの手のタイプは難癖つけて購入を拒否すると思う。そうなると本部でリペアしてB級品扱いかしら。そんなのもったいなさすぎる!

てか、いい加減諦めて顔を出してよ!そのためにインチアップしたのを持ってきてあげたんだから!

 

とイライラしていたら、あのヒトが出てきた。でも何よそれ!明らかにヒップが収まっていないじゃない!それを無理矢理ボタンで留めて、伸び伸びのヒップ回りを隠すために上着の裾で隠してる。もしかするとフロントジップ、閉まってないんじゃないの?まさか、壊してないわよね?!

デニムが横に引っ張られすぎて、見るからにかわいそうな状態だわ。急いで27インチを履かせなきゃ――。

 

その瞬間、この客は驚きの一言を吐いたのよ。

「ちょうどいいね、これください」

あぁ、これが醜いプライドってやつなのかしら。明らかにサイズミスしてるのに、「そのうち伸びるから」って理由で無理して買う客は多い。ウチのブランドはそういう履き方をするところじゃないんだけど。

 

――まぁいいか。そのうち「やっぱり履けなかった」ってことで別なジーパンを買いにくるんだから。このヒトは素晴らしいお客様だわ。

 

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